｢デザイン思考｣のIDEOが取り組んだ教育システム改革

カルロス・ロドリゲス-パストール（Carlos Rodriguez-Pastor）氏の祖国ペルーでは教育システムが立ち遅れていた。

億万長者のビジネスマンでもある同氏は、高額な教育費のかかる私立学校か、荒廃した公立学校しかない現状を変え、中流階級の子どもたちに別の選択肢を与えられないかと考えた。

そして2011年、世界的なデザイン企業IDEOとともに、新たな選択肢を作り上げた。

｢イノーバ・スクールズ（Innova Schools）｣は、テクノロジーを用いた自己学習と、教師が指導する少人数クラスの学習を組み合わせた教育手法を採用、生徒たちの創造性、柔軟性、批判的思考を養う。毎月の授業料はわずか130ドルだ。

イノーバは国際的な注目を集めており、最近ではアメリカ・インダストリアル・デザイナー協会（IDSA）が主催するインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞（International Design Excellence Awards）において最高賞を受賞した。

画期的な学校の様子を見てみよう。

ペルー全土に41校を展開、幼稚園から日本の高2相当の学年まで、3万1000人近くが学んでいる。建物はモジュラー方式。壁や椅子は可動式で、空間は教師たちが素早く、簡単に授業を始められるよう設計されている。

ペルーの子ども800万人のうち、4分の1近くが、私立学校に通っている。公立学校があまりにもひどい状況にあるからだ。学校を監獄のように感じないように、パストール氏とIDEOは、イノーバを可能な限り開放的で広々とした空間にした。

2015年2月、イノーバはペルー最大の私立学校ネットワークになった。2018年までには50校、生徒数4万人に拡大する見込み。最新テクノロジーと自己発見を通して、子どもたちにインスピレーションを与えることをゴールとしている。

イノーバの授業は2つのセクションに分けられる。半日は30人程度の少人数クラスで、教師から最小限の指導を受けながら、協力して問題解決に取り組む。あとの半日は、Khan AcademyやTime to Knowといったウェブサイトを利用した自己学習。

IDEOとパストール氏は、最初から｢イノーバは美しくあるべき｣という意見で一致していた。親たちには、子どもたちが素晴らしい環境の中で学んでいると自信を持って欲しかった。また、レクリエーションとユーモアを重視することも、大切なことだった。学ぶことは機械的なことではなく、楽しいことだからだ。

イノーバの教育には、社会性を養うことも含まれている。イノーバでは、しばしば屋外での授業も行われる。生徒たちがノートPCを使った授業にうんざりしないように。

イノーバの教育手法は成果を上げている。2013年、イノーバの生徒の61％が、国が実施した数学のテストにおいて高いレベルに達した。一方、ペルー全体では17％だった。

将来、成功するためには、子どもたちは主体的でなければならないと、イノーバは考えている。子どもたちはイノベーションプログラムに参加し、社会問題の解決に取り組む。学期の終わりには解決案のプレゼンテーションを行う。

イノーバにとって最大の課題は、この教育手法が効果的であることを親たちに納得してもらうことだった。歌を歌ったり、ノートPCを操作することは、従来の学習方法とはかけ離れている。しかしイノーバは数字で証明した。数学と国語の両方で、イノーバの生徒の得点は、国の平均の数倍の高さになった。

イノーバは教員にも優秀さを求めている。つまり、新しい教育システムを迅速に展開するには、多くの教員をトレーニングする必要があった。そこでイノーバは教員用のトレーニングセンターを作った。2万に及ぶ課程が整備され、ベテランの教員が若い教員を指導した。

こうした教育は、学ぶことに積極的に取り組み、最新テクノロジーに精通した生徒たちを生み出した。イノーバは、こうした生徒たちが大人になれば、グローバルエコノミーにおける競争の中で、素晴らしい影響を与えることができるだろうと述べている。

［原文：A Peruvian billionaire contracted a world-famous design firm to remake his country's private school system, and the results are stunning］

（翻訳：仲田文子）