6兆円市場で対決 王者インテルvs. AMD「新世代CPU争い」 —— 再びシェアを獲れるのか?

インテル コードネーム:Pur;eyのXeonスケーラブル・プラットフォーム

インテルが発表した「Xeonスケーラブル・プラットフォーム」のCPUとなるXeonスケーラブル・プロセッサー。

半導体メーカーのインテルは、7月11日にニューヨークで記者会見を開催し、同社のデータセンター(サーバー)向け最新製品となる開発コードネーム:Purley(パーリー)で知られてきた「Xeon(ジーオン)スケーラブル・プラットフォーム」を発表した。データセンターは、スマートフォンやInternet of Things(=モノのインターネット)と呼ばれるIoT製品・サービスを利用する時に、クラウド側で利用されるため、需要が増している。

これまではインテルがこの市場をほぼ独占してきた。そこに今、挑戦状を叩きつけているのがインテルの長年のライバルであるAMD社だ。AMDは6月に同社としては久々のデータセンター向け製品となる「EPYC(エピック)」を発表し、インテルの持つ牙城に挑戦していく意向だ。

スマートフォン、IoT普及と表裏一体、需要増すばかりのサーバー向けCPU

データセンターとは、企業やクラウドサービスを提供する企業などが建設するサーバーを格納する建屋のことだ。現在世界各地に建設され、日々企業のエンタープライズ事業や、グーグル、アマゾン、マイクロソフトといった、いわゆる「パブリッククラウド」サービスを提供しているITベンダーに活用されている。読者が今この記事を読むのに使っているスマートフォンやPCといったデバイスも、必ずデータセンターにあるサーバーに接続され、何らかのクラウドサービスを活用しているというのが今のITの姿だ。

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インテルが公開した4ソケット(CPUを4つ搭載した)のサーバー。市場の中心は2ソケット(CPUを2つ搭載した)サーバーだ。ただし、4ソケット以上のものも、24時間365日停止が許されない、いわゆる「ミッションクリティカル」な法人業務用途やデータベースなどの市場で利用されている。

スマートフォンの爆発的な普及に伴い、データセンターの需要は拡大している。IDCが四半期ごとに公開しているサーバー向けの市場動向データを元に計算すると、2016年にサーバーメーカーの売り上げ合計は529億2340万ドル(日本円で約6兆332億円、1ドル=114円換算)となっており、2010年の487億9324万ドル(日本円で約5兆5624億円、同)と比較して市場規模は8%拡大している。今後もIoT(Internet of Things=モノのインターネット)の普及や、AIへの需要が増していくことを考えれば、増えこそすれ、減ることはないだろう。非常に有望かつ、巨大な市場だ。

(出典:IDC調査 2016年 第1四半期第2四半期第3四半期第4四半期・Gartner調査 2010年

データセンター向け半導体市場のリーダーは、米インテルだ。ARM社ベースの技術が優勢なモバイル市場とは異なり、PCやデータセンター向けの半導体製品は、インテル社のIA(=インテル・アーキテクチャー)ないしはx86と業界で呼ばれる製品が主流となっている。IA/x86のプロセッサーを設計、製造できるのは、インテル社とそのライセンスを得ているAMDのみだ。このため、PCも含めて過去にはインテルとAMDの熱い競争があり、それが市場の成長につながってきた側面がある。

サーバーも同様で、2000年代の半ばにAMDがリリースした「Opteron(オプテロン)」が、インテルに先駆けて当時最新の"64ビット命令"を導入したことで、インテルから市場シェアを奪ってきた。AMDは、2006年には数十%という市場シェアを得て、インテルの対抗馬たり得ていたのだが、そこをピークにして徐々に市場シェアが下落していった。

その後、性能を理由に後継CPUが不評を買ったことなどが重なり、気がつけばインテルが市場シェア99%を占めるという状況が発生してしまった。

AMDのサーバー向けCPU「EPYC」が注目を集めている理由

そうした状況を覆そうと、AMDが開発した渾身の最新作が、AMDが6月20日(現地時間)に発表した「EPYC」である。EPYCの特徴は、AMDが開発した"Zen(ゼン)"と呼ばれる新しいアーキテクチャを採用しており、さらにインテルの最新製品であるXeonスケーラブル・プラットフォームの最大28コアを上回る、最大32コアを実現していることだ(コアが多いことのメリットは後ほど解説)。

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AMDのEPYCは、Zenアーキテクチャを採用して32コアを実現。

AMDのZenは、PC業界ではかなり好意的に受け入れられている。その最大の要因は性能だ。AMDは過去に性能よりも消費電力を重視した設計で失敗し、決定的にシェアを失ったが、Zenではしっかりとピーク性能を高める設計にしてきた。実際、Zenを採用した最初の製品であるデスクトップPC向けCPU「Ryzen」は、インテルの製品を性能を客観比較するベンチマークプログラムのスコアで上回ってみせた。EPYCはそのRyzenをベースに、MCM(Multi Chip Module)と呼ばれる技術を活用して、CPUパッケージの中に4つのCPUチップ(CPUチップ1つにつき8コア)を入れることで、合計32コアを実現している。

さらに、EPYCの強みはコストパフォーマンスにある。インテルが発表したXeonスケーラブル・プロセッサーの28コア製品の価格は、1万3000〜9000ドル(148万円〜102万円)というかなり強気の価格設定になっている。これに対して、32コアのEPYCは4200ドル〜3400ドル(47万円〜38万円)というインテルのそれに比べて1/3〜1/2程度と低価格に設定されている。

EPYCの"CPUに内蔵するコア数が多い"という仕様は、エンタープライズ系のソフトウェア、例えばオラクルやSAPなどの課金においても有利だ。これらのソフトウェアでは、ライセンスが物理的なCPUソケットに対して課金されるため、1つの物理的なCPUに多くのCPUコアを詰め込んだほうが経済的なのだ。安価な価格と、サーバー市場のライセンスに対する経済性、この2つがAMDのEPYCの売りと言える。

AMDを返り討ちにするサーバーCPUの王者インテル

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だが、AMDにも課題はある。1つはソフトウェアの互換性の問題、もう1つはCPU以外の周辺部分がインテルに比べて圧倒的に劣っているという点。インテルの新製品が、多くの人が予想していたよりも大きな性能向上を実現していたためだ。

まず1つ目について。インテルのデータセンター製品マーケティング担当 デイブ・ヒル氏は、

「我々は仮想化への対応を近年進めてきた。このため、インテルの仮想化技術にはここ数年多くの進化を遂げている。これはAMDとの互換性は無い」

と語る。特に、現代のデータセンターでは当たり前のように利用されているVMWare社などが提供する”仮想化ソフトウェア”への対応が、インテルはAMDよりも数歩先に行っており、かつAMDの新しい製品はそのインテルの仮想化技術とは互換性がないと指摘する。

現代のデータセンター向けサーバーでは、仮想化ソフトウェア向けのハードウェアアクセラレーションが必須となっている。インテルではこれを"インテル VT"と呼んでおり、インテル独自の拡張であるため、AMDへのx86ライセンスの契約には含まれていない。このため、AMDはAMD-Vという独自の拡張を行っているのだが、インテル VTとの互換性はないため、ソフトウェアベンダー(VMWareやマイクロソフトなど)は両方をサポートする必要がある。

インテルはここ数年、VTの機能を矢継ぎ早に拡張しており、ソフトウェアベンダーはその拡張をサポートして性能を引き上げてきた。当然AMDのCPUではそれを利用できない。かつ、現在インテルVTに対応した仮想マシンを、AMD製品で構成された環境に持ち込むとなると、ライブマイグレーションと呼ばれる変換を行う必要があり、これが不測のトラブルを呼ぶ可能性があるため嫌がるシステム管理者は多い。

2つ目の"CPU以外の周辺部分の課題"は、より専門的な話になる。インテルは今回発表したXeonスケーラブル・プラットフォームで、CPU直結でOmniPath(オムニパス)という内部接続(インターコネクトと呼ぶ)を標準でサポートしている。OmniPathは、従来データセンターで一般的に使われていたInfiniBand(インフィニバンド)の発展版で、サーバーとサーバーの間を超高速に結ぶことで、データセンター全体の性能向上を狙うものだ。また、CPUとセットで使うチップセット側では10Gbpsを実現する超高速なネットワーク(10ギガビットイーサネット)を4ポートも搭載できるため、低コスト化にも貢献する。

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左側のCPUパッケージの下に生えている端子がサーバー同士を高速接続する「OmniPath」だ。コネクターがCPU直結になっていることがわかる。

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こちらがomini path用のケーブル。

また、インテルはXeonスケーラブル・プラットフォームで内部のアーキテクチャも大きく見直している。CPUコアやメモリコントローラなどを接続する内部接続を、多くのCPUコアがあるチップ向けの方式に変更し、性能と消費電力改善を行った。他にもインテル自身が「10年に一度の大きなアーキテクチャの改変」と言うだけの改良が加えられている。

これらにより新しいXeonの性能は大きく高まった。性能は、従来世代に比べて平均で1.65倍という性能向上を実現している(従来は1.2倍程度が多かった)。インテルがAMDに対して強気な価格設定をしているのも、その性能への自信の表れと見ることもできる。

OEMメーカーにとっては、まだ"交渉のカード" しかし競争激化は間違いなし

既にOEMメーカーに関しては、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)とデルがEPYCの採用予定を明らかにしている。これに対してインテルのXeonはほぼ全てのOEMメーカーが採用しており、その差は決して小さくない。

OEMメーカーにとってEPYCを採用する短期的なメリットは、シンプルに言ってインテルとの交渉のカードとして使えるという点にある。インテルとの価格交渉の中で、AMDのEPYCを採用すると匂わせば当然インテルとして価格を下げざるを得ないだろう。

既に説明した通り、現状ではインテルのリードはあまりに大きく、インテルの価格設定を見ても、AMDに影響された部分はあまり大きくなさそうだ。つまり、インテルの側は今年の所はAMDの影響は小さいと考えているのだろう。しかし、(安価で性能がそれなりに高いサーバー向けCPUの存在は)長期的に見れば競争が激化していくことは間違いない。これは、新しいデータセンターを巡る覇権争いの、最初の第一歩に過ぎないのだから。

(撮影:笠原一輝)


笠原 一輝:フリーランスのテクニカルライター。CPU、GPU、SoCなどのコンピューティング系の半導体を取材して世界各地を回っている。PCやスマートフォン、ADAS/自動運転などの半導体を利用したアプリケーションもプラットフォームの観点から見る。

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