ビジネストリップの必需品「スーツケース」。それを100年以上も作り続け、優れた機能性とデザイン性の両面でトラベラーから高い信頼を寄せられているメーカーが「サムソナイト」だ。
このほど、サムソナイトが新作のスーツケース「ARQ(アーク)」を発売する。サムソナイトらしい品のあるデザイン、軽量な樹脂素材ながら質実剛健な雰囲気のモダンな外観が品質の高さを感じさせる。
筆者は取材やプライベートでの海外渡航が年間10回以上、サムソナイトのスーツケースを愛用している。ARQのデザインを担当したサムソナイトのアジア地域のチーフデザインディレクター 前田伸央氏に、ARQの"良いモノ感"の裏側に隠されたデザインへのこだわり、トラベラーから愛されるサムソナイトらしい革新性と合理性の真髄について聞いた。
ARQが生まれた理由、旅する人が求める"現代的機能"とは
ARQで唯一の光沢仕上げとなる「コバルトブルー」モデルのSpinner 69。縦横に走るグルーブ(溝)がデザインのアクセントとなって、品のある独特の"顔"を造り出している。
前田伸央。2005年にデザイナーとしてサムソナイトへ入社。以来、ロンドン、香港などでサムソナイトの製品デザインを手がける。現在はアジア地域のチーフデザインディレクターとして活躍中。
提供:サムソナイト
左から機内持ち込み対応の「Spinner 55」(35.5L)、今回紹介する「Spinner 69」(74L)、大容量の「Spinner 75」(100L)。カラーは全シリーズ共通で、左からマットグラファイト、コバルトブルー、マットカッパー。
提供:サムソナイト
スーツケース市場は、ネット直販による販路の細分化によってラインナップが多様化している。そのため各社とも、価格帯から機能まで、ユーザーの個性に合わせたさまざまなスーツケースを用意している。
サムソナイトのデザイナー・前田氏は、「流行にはさまざまあるが、サムソナイトが重視するコンセプトは一貫している」と語る。「我々が大切にしている考え方は、新しい技術を取り入れる"革新性"と"合理性"、誰もが納得する高い"クオリティ"、この3つです。これらの要素を前提とした上で、ユーザーの利益になることが、我々の考えるサムソナイトらしさです」(前田氏)。
サムソナイトこそ、スーツケースの歴史そのものと言ってもいい。これまで、さまざまな"革新"を持ち込み、世界に先駆けて採用してきた。
「たとえば、いま全世界のスーツケースで当然のように使われているホイールのシステムを世界で初めて搭載したのは、サムソナイトでした。1974年に登場した"シルエット"で採用したものです。
また、ポリプロピレン素材を射出成型してつくるスーツケースを世界で初めて採用したのも弊社の製品"サターン"です。軽量かつ強度に優れた新素材については、複数の特許も持っています」
"良いモノを長く使いたい"という人の多いミレニアル世代にとって、サムソナイトはまさしく品質で勝負してきたメーカー。そのサムソナイトがつくる最新作「ARQ」とはどんなスーツケースなのか。
ARQの機能性の秘密 —— 20:80分割の使いやすさ
ジッパーで分割される荷室は、あまり見ることのない20:80分割。これが、魔法的にパッキングを楽にして、さらに物理的な容量以上の使いやすさを実現する。
荷室はそれぞれジッパーで閉じられる仕組み。開いた際に、不意に荷物が転がり出てくるようなことがない。使いやすさへのこだわりの1つだ。
ARQの外観でまず目をひくのが、一般的なスーツケースでは50:50となっているシェルの分割比が20:80になっていること。この分割比は「SPIN TRUNK」で初採用され、ARQは好評のシステムを受け継いだ2代目となる。この比率によって、一般的なスーツケースに比べて、メイン区画にゆったりと旅の荷物を収納できるようになっている。
20:80の収納区画の分割比率は、旅の荷物のパッキングを考えた際に非常に合理的だ。
威力を発揮するのは、カサが高い荷物を詰め込む場合。筆者もたびたび経験しているが、出張先で靴や小型の家電製品などを購入した場合、箱のままスーツケースに入れるのは相当に難しい。箱が収納スペースの高さを超えてしまうからだ。
結果、製品を箱から取り出して、箱は畳んで収納したりすることになる。それでも、型崩れやショックからの保護という観点では"無理して収納"していることに変わりはない。シェルの分割比が20:80のARQなら、3つあるサイズのうちMサイズにあたる74Lモデルの「ARQ Spinner 69」(重量 約4.3kg)でも、メイン収納の高さが約150mmもある(編集部調べ)。これなら靴などを箱に入れたまま問題なく収納できてしまう。
前田氏は言う。「これは、分割の比率を変えただけ、ではありません。(他社にあまり見られないのは)実は技術的なハードルが高いのです。サムソナイト品質の強度を保ちながら使い勝手、精悍なデザインを実現するために随所に工夫を凝らしています」
縦横に走るグルーブ(溝)が作り出す複雑な造形が、品のある良いもの感をつくりだしている。
シェルの素材には軽量かつ高耐衝撃・高強度のポリカーボネート100%の"マクロロン"を採用する。前田氏の言う"デザイン上の工夫"の一例は、シェルの分割比20:80を実現するために背面側(収納区画が深い側)のシェルに"深絞り"という整形技術を使ってつなぎ目なく加工していること、正面から見たときにジッパーの下部が曲線を描くような設計になっていることなどがある。
一方でこうした形状は、製造の難度が上がってコスト増になるため、低価格重視の製品には採用されにくい。こうした細部にこだわったデザインの積み重ねが製品の"良いモノ感"を産み、それがARQの高級感に繋がっている。
静粛性にすぐれたサスペンション付き4輪ホイール
キャスターはすべてダブルホイール仕様。さらに取り付け部分は伸縮するサスペンション機構を内蔵。これらによってこれまでにない静粛性の高さと走破性を実現している。
ARQのもう1つの特徴は、サムソナイトのスーツケースとしてはじめて「サスペンションホイール」を採用したことだ。特に、日本のスーツケース愛用者からの要望として多い「高い静粛性」という要望に、ドンピシャに答える機能になる。
「サスペンションホイールを採用することによって相当に静粛性が高まっています。荷物をパッキングして転がしてみると、すぐにその違いが感じられます」(前田氏)
実際に荷物を詰め込んで引いてみたが、段差があるタイルような場所でもタイヤの転がる音自体が静かなだけではなく、引く際に使うデュアルチューブの伸縮ハンドルを通じてちょっとした段差を超えるときに衝撃を丸めてくれていることがわかる。
サムソナイトのスーツケースは近年、大口径ホイールを採用しているが、それ以前の小型のホイールと比べると、回転の滑らかさは段違いだ。これは特に動き出しに効果が絶大で、筆者の経験則として約20kgの荷物を収納したヘビーな状態でもあまり力を入れずに軽く動かせる。
スーツケースは工業製品としてはかなり乱暴に扱われる製品だ。サムソナイトではこういった耐久性に対しても、ドラムの中で回して破損しないかどうかチェックするなど、独自の基準を設けてテストをしている。
この独自基準について前田氏は、「国によっても違い、さらに年々厳しくしてきている」と語る。サムソナイトでは独自基準をおよそ5年ごとにアップデートして質を高めており、2016年に最新の基準に更新している。つまり最新モデルのARQは、現時点では最新水準の耐久性テストをクリアしたモデルということになる。
ARQに海外取材1週間分の荷物をパッキング、使ってみてわかったこと
通常の1週間分の海外取材の荷物一式を詰め込んでみたところ。いつものスーツケースより外観はひとまわり小さいのに、荷物があふれることもなくすんなり飲み込んでしまった。
ちなみに、今回は衣類は荷室が深いボトムケース側、機材一式は蓋側に配置。3脚がフタ部分にぴったり収まった!
筆者が普段海外出張へと持ち運んでいる荷物をARQ Spinner 69に詰めてテストしてみた。普段使っているコスモライト(50:50分割)と比較すると、20:80というシェルの分割比は特にボトムケース側に荷物を詰めやすい。50:50のシェルの場合、どうしても荷室の高さが足りないため、閉じてロックをする際にギュウギュウに押しつぶしてしまう。
ARQの場合、高さに余裕があるので配置の自由度が高い。今回使った74Lモデルのボトム側荷室サイズは、実測で高さ約150mm。筆者の場合、衣類のほか取材機材のケーブル類や洗濯用のアイテムなどをエコバッグで分類してスーツケースに収納している。高さがあることで重ねて収納しやすいため隙間なく詰め込める。
驚いたのは、普段使っているコスモライトはARQに比べて外観が一回り大きいのに、その満タンの荷物が無理せずファスナーが閉められる状態でパッキングできたことだ。デザインが曲線基調のコスモライトと違って、ギリギリまで容積を確保するARQのデザインは容積効率の面で有利ということだ。
蓋の部分は"2割"とはいえ、実寸で70mmほどの深さがある。見た目より収納力があり、例えば、コンパクトなドライヤーや、取材の仕事道具であるカメラの三脚なら十分収納できる深さだった。メインの荷室だけでなく、蓋の部分も収納スペースとして十分活用できるのが20:80分割の優れたところだ。
さらに蓋の部分が軽くなるので"開閉しやすい"というメリットもあった。50:50の場合、蓋として開ける方にも多くの荷物を詰め込んでしまうため、開閉時に結構な重さになるが、ARQではそれがない。
デュアルチューブの伸縮ハンドルは2本仕様。ハンドルを最も縮めた際に、斜めに角度をつけたエッジと同じ角度で美しく収まるのもデザインのこだわりの1つ。ハンドルの基部からはネームプレートを格納するちょっとした仕掛けもある。
定番のTSA対応のダイヤルロックも装備。
側面のハンドルの取り付け部分は、高さを抑えるために一段低く、またハンドル自体も突起部を減らし滑らかに造形。
デュアルチューブの伸縮ハンドルはダブル仕様で剛性が高く、2輪状態で斜めに引いても、4輪を接地した状態で押して歩いても安定している。もちろんスーツケースの上に載せるビジネスバッグなどに装備が増えているループに通したりと、ハンドルの幅をいかした活用もできる。
全体のシルエットは一目でスーツケースだとわかる普遍的なフォルムだが、細かなグルーブや蓋側のシェルに緩やかな傾斜がつけられているなど、よくみると凝ったデザインであることがわかる。
ユーザーが本当に必要としている要望に最新の技術を使って応え、さらに普遍的なスーツケースらしさを失わずに、デザイン性と機能性を十分に高めた「ARQ」。海外旅行や出張の相棒を探しているならぜひ店頭で実物を見てみよう。
■サムソナイト ARQの詳細情報はこちらから(公式サイト)
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(撮影:岡田清孝)