ネストCTOの松岡氏。当初、プロテニスプレーヤーを目指していた同氏は、テニスロボットを作ることを夢見て学んだロボット工学で名を成した。
Stuart Isett/FORTUNE Brainstorm Tech. Used by permission.
松岡陽子(Yoky Matsuoka)氏は並み外れたキャリアの持ち主だ。当初、プロテニスプレーヤーを目指していた同氏は、テニスロボットを作ることを夢見て学んだロボット工学で名を成し、ワシントン大学とマイクロソフトの基礎研究機関マイクロソフトリサーチ(MSR)で研究を続けた。
その後、グーグルの研究開発部門「Google X」(現「X」)の共同創設者3人の中に名を連ね、現在はグーグルの親会社アルファベット傘下でスマート家電に取り組むネスト(Nest)の最高技術責任者(CTO)を務めている。
大学の研究者と企業の製品開発者という2つの顔を持つ松岡氏は、画期的な研究を製品化することが難しい理由について興味深い見解を持っている。
松岡氏は、学問と産業の間には、超えることが難しい「デス・バレー(死の谷)」があると言う。学問と産業は異なる物事を追求するものだからだ。
学問が目指すものは、今まで証明されたことのないアイデアを証明することだ。アイデアを発想し、助成金を申請し、研究生を雇い、コンセプトを実証し、皆に論文を書かせる。論文がさらに助成金をもたらし、研究の継続性が保証される。
ここにギャップが生まれる。研究者たちは自分たちの研究成果を誰かが製品化し、何百万もの人々が使うようになるだろうと思い込む。
しかし「ある製品に10人が満足したからといって、それを何百万人、何十億人という人々が満足する製品にすること」は簡単なことではないと松岡氏は語る。
また、そのギャップを埋めていく作業は、「誰にとってもつまらない作業だ」。
研究者たちは、まだ誰も手をつけたことのない新しいことに注目したがる。すでに証明されていることや発表されていることには興味がなく、まして何十億人ものユーザーのために製品化することには関心がない。
一方、製品開発を行う人たちは、たった10人くらいしか満足していない初期段階の技術に実験的に取り組むことはしたがらない。「我々は実際の製品に取り組んでいる」というのが彼らの基本姿勢だと松岡氏は言う。
松岡氏は、こうした状況を解決するためには、両者のより密接な協力関係が重要であり、彼女自身のように大学での研究開発と企業での製品開発の2つのキャリアを行き来する研究者がもっと必要だ。
実は、これが「X」設立の背景にある考え方の1つだ。研究における「パラダイムシフト」を目指すと同氏が言うものだ。Xが立ち上げた企業はまだどこも商業的に成功していないが、「Xの基準で見れば、非常に成功している」と松岡氏は述べた。
[原文:Google X founder explains 'The Valley of Death' in product development]
(翻訳:Tomoko A.)