ATMは飲み会 —— マネーフォワードのエンジニアのキャッシュレス生活

長野の田園地帯に生まれ育った鈴木信太郎(33)には大きな野望というものがない。

それでもリスペクト(尊敬)する人物は、と問われれば、スティーブ・ジョブズと答える。ジョブズが多くの人の「10年後の未来」をiPhoneで変えたように、フィンテック・エンジニアとして10年後には、お金の不安を減らして、お金に束縛されない日常を送ることができる世界を作りたいと考えている。

鈴木の職場は自動家計簿・資産管理サービスを開発・提供するマネーフォワード。10年後、人は現金を持たずに全ての買い物をして、収入と支出、投資はデジタルで管理する。鈴木の描く近い未来だ。

今、鈴木はすでに、キャッシュをほとんど使わない生活を始めている。

銀行やコンビニエンスストアのATMでお金を最後に引き出したのは5月19日。約2カ月間、ATMを使って自分の銀行口座から現金をおろしていない。支払いは、iPhoneの中にあるクレジットカードやスイカ(Suica)で、投資は投資信託などに加えてロボアドバイザー(アルゴリズムを使って最適な資産運用ををアドバイスしてくれるサービス)を使う。

現金のない生活とは実際どんなものなのか。鈴木の日常を追った。


長野高専と静岡大学でコンピューター・サイエンス(CS)を学んだ鈴木。「僕の生きてきた30年間は、不景気の一言に尽きると思います。不景気を生きた10代、20代でした」と語る。中学1年生のとき、父からもらったNECのコンピュータが、彼をCSの世界に招き入れた。

鈴木さん


「お金の流れをもっと見える化して、支出の計画や管理が一瞬でできれば、お金の不安が減ると思うんです。人の寿命が伸びてきている今、退職後の時間は長くなる。お金に束縛されない生き方を、テクノロジーを使って可能にできないだろうかと考えています。現実を知って、お金に束縛されないようにすることは、矛盾していると思われるかもしれません。しかし、フィンテックの進歩は、お金を中心とする社会に大きな革命を起こせると思います」

仕事をする鈴木さん


普段の支払いはApple PayでSuicaとクレジットカードを利用。ほとんどの買い物に現金を使わない。ビットコインは2年前に手に入れたが、投資目的ではない。仮想通貨を勉強するつもりで、今でも保有している。「今度、ビットコインで買い物をしてみようと思います」

スマホのアプリ画面


2015年2月にマネーフォワードに入社。自動家計簿・資産管理サービスの開発に参加してきた。現在、グループ会社のMF KESSAIで、企業間取引向けの掛売りアウトソーシング・サービスを開発している。マネーフォワードは7月、「LINE Pay」と連携した。ユーザーが「LINE Pay」で送金、決済、チャージした履歴や残高が「マネーフォワード」に自動に取り込まれ、銀行口座やクレジットカードなどと同様に、資産として管理ができるようになる。

同僚たち


株式や債券に投資しているが、ロボアドバイザーを使う。3つのロボアド・サービスを使い分け、投資状況はスマホやタブレットで把握する。「ロボアドは便利だと思います。今まで、株や債券の投資は面倒だと思っていました。僕が使う3つのロボアドの1つは、投資のアドバイスもしてくれます。例えば、この債券を購入すると、僕が保有する株価の変動をヘッジすることにつながるとか」

パソコンを眺める鈴木さん


もちろん現金が必要な時もある。まだまだ現金でしか支払えない居酒屋などもあるからだ。「銀行やコンビニのATMを使うのは、2カ月に一度くらいです。同僚や友人との食事会や飲み会の会計はクレジットで支払い、割り勘の代金をキャッシュでもらう。「飲み会がATMになってますね」

オフィスの鈴木さん


鈴木は、10年後に財布はなくなるという。「指紋認証や顔認証などのバイオメトリクスの技術は進化しています。財布はモバイルや鍵のような小さなものに集約されていくと思っています」。将来はジョブズのような世界を変える人になりたい?と聞くと、「お金持ちになりたいという強い願望はないです。生活に困らない収入があれば良いですね。ジョブズがすごいのは、10年後の世界を変える仕組みを作ったことだと思います。僕はこれからも力のある企業で、自分自身の力を発揮できたら良いと思ってます」と語った。

オフィスの鈴木さん


(本文敬称略)

(写真:マネーフォワード)

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