Appleの秘密主義に疲弊するトップエンジニアたち

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Apple CEOティム・クック氏

Andrew Burton/GettyImages

1月上旬、人気プログラミング言語「Swift(スウィフト)」の生みの親クリス・ラトナー(Chris Lattner)氏がAppleを退社し、テスラに入社するというニュースが流れた。

なぜ、この時期にラトナー氏はAppleを離れるのか。開発者仲間の1人がその背景を話してくれた。

Apple退社の最大の理由は彼(ラトナー氏)がAppleの秘密主義にうんざりしていたことだ。彼の仕事(そして、ライフワーク)はオープンソースの開発支援ツールを作ることだったから、なおさらだった。

「彼(ラトナー氏)は公のディスカッションを制限されることに窮屈さを感じていた」とこの人物は話す。

「採用活動など、プログラミング以外の仕事をしなければならないことにもうんざりしていた。結局のところ、“そういうこと”が人を疲弊させてしまう」

この友人の見解について、ラトナー氏本人からコメントを得ることはできなかったが、この記事(US版)が公開された後、彼はTwitterにあるツイートをポストした。

わたしの決断は、“オープンさ”とは無関係です。取材に答えた“友人”は、その存在がでっちあげか、(仮に存在するにしても)彼の憶測にすぎない。みんな、悪いように考えたいようです。

初めてのことではない

Appleがその秘密主義のために優秀な才能を失うのは、これが初めてではない。以前伝えたように2015年には、1週間のうちにネットワークチームに所属する社員全員が会社を辞めたことがあった。これはAppleがチームに万全のネットワーク構築を求めておきながら、この分野で同様の研究を行う外部団体であるOCP(Facebookが主導)のメンバーと協力することを許可しなかったためだ。

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スナップルートの創業者 兼 CEO フォレスター・ジェーソン氏

SnapRoute

Appleを飛び出したそのチームは、スタートアップ企業「スナップルート」(SnapRoute)を立ち上げた。スナップルートは現在、ネットワーク業界の雄として、その名を轟かせている。メンバーを失ったAppleはその後、姿勢を軟化させ、正式にOCPのメンバーとなった。

また、AI(人工知能)においてもAppleはその秘密主義の転換を余儀なくされている。2016年12月、同社はチームメンバーに対し、研究論文の公表を認め、大学などの機関との共同作業も許可した。AppleのAIチームはほんの数週間前に初の論文を発表した

これは大きな方向転換だ。秘密主義的アプローチのためにAppleは「AI分野で優秀な人材を得られない」と見なされていた。AIは現在のIT業界における最大のトレンドであり、この分野の技術者は皆、自身の成果を大きなAIコミュニティに発表したいと考えている。

FacebookのAI担当ディレクター、ヤン・ルカン(Yann LeCun)氏は2016年12月、Business Insiderに対し、「FacebookのAIリサーチユニット(FAIR)では、成果を公表することは認められているだけでなく、むしろ求められている」と話した。

オープンソースソフトウェアにAppleがまったく関与していないわけではない。スウィフト以外にもWebkitやResearchKit、CareKitなどの主要テクノロジーの数々がシェアされている。同社の製品(オペレーティングシステムなど)にオープンソースの技術を使用することもある。

だが、実際のところ、Appleはオープンソース業界の“模範生”と考えられているわけではない。たとえば、GitHub」でAppleがシェアするオープンソースプロジェクトの数はたった約33件に過ぎないが、マイクロソフトのプロジェクト件数は1200件を超える

理由は1つではない

ラトナー氏がAppleを去る理由は「秘密主義」だけではないはずだ。彼が生み出したスウィフトはMacOSやiOS用のアプリを構築するための言語であり、Appleとしては“比較的新しい成果”といってよい。Appleがこの言語をリリースしたのは2014年に開催されたワールド・ワイド・デベロッパーズ。その後、あっという間に最も人気のあるプログラミング言語の仲間入りを果たした。

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クリス・ラトナー氏

LinkedIn/Chris Lattner

スウィフトは当初、社内で開発されていたが、オープンソース化してからは、Apple内外に急速に一大コミュニティが形成された。

その結果、常時一定数の人材が確保できるようになり、ラトナー氏は新しいことに取り組めるようになった。そして、そのことは、ラトナー氏が必ずしもAppleで働きつづける必要がないという状態の誕生にもつながった。

あるいは、ラトナー氏は「(Appleにとって)重要度が低いと考えられている分野」で仕事をすることに疲れてしまった可能性もある……。

コンシューマ向け製品に重点を置く企業(Apple)で開発支援ツールを開発・運用していたラトナー氏は、“自動運転技術を構築する仕事”をするため、テスラに移籍する。テスラはApple社員の引き抜きに熱心だ。その後のニュースでは、同社がラトナー氏に加えて、Mac Proと新型MacBookのトップエンジニア、マット・ケースボルト(Matt Casebolt)氏も獲得すると伝えられた。

Appleはコメントを拒否した。

[原文: How Apple's culture of secrecy wears down its top developers

(翻訳:Conyac

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