メキシコの麻薬王エル・チャポ・グズマンの本拠地が合成ドラッグ製造の温床に

ドラッグ工場の捜査

シナロア州でドラッグ工場を捜査するメキシコ当局

Mexican Naval Secretariat

メキシコ北西に位置するシナロア州 —— メキシコの犯罪組織の大物、エル・チャポ・グズマンが生まれ育った地域は、近年、メタンフェタミンなど増え続ける合成ドラッグの一大生産拠点となっている。

シナロア州、チワワ州、デュランゴ州の3つを囲んだ地域は、メキシコの「黄金の三角地帯」として知られ、大麻やケシの栽培が盛んだ。

そして近年、増え続ける合成ドラッグは、ドラッグ取り引きにおけるメキシコ犯罪組織の存在感が大きくなっていることを示している。そこには、アメリカのドラッグ常用者の変化が影響しているようだ。

地元の軍事区域の指揮官ロゲリオ・コントレラス(Rogelio Terán Contreras)氏によると、シナロア州と、州都クリアカンの周辺で見つかったドラッグ工場の数はこの2年間で2倍になっている。

2014年には47の工場が見つかり、2015 年には80の工場が見つかった。メキシコのエル・ユニバーサル紙やInsight Crime(中南米の組織犯罪を調査している非政府団体)によると、2015年だけでメキシコ当局は新たに55の工場を発見してた。

また、6月の終わり以降、メキシコ軍はシナロア州のコサラ近辺で合成ドラッグの工場らしき場所を見つけ、クリアカンやクリアカンから30マイル(約50キロ)ほど離れた地域でも疑わしい工場を見つけている。

「本質的な問題は、犯罪が組織規模で行われていることだ。9つの軍事区域の部隊は、組織犯罪を一掃するのが目的だ」とコントレラス氏はエル・ユニバーサル紙に語った。

シナロア州のドラッグ工場

シナロア州で見つかったドラッグ工場

Mexican Naval Secretariat

「メキシコの密売業者は、工場の改良、製造の方法の変更、原材料の新しい入手ルートの確保により、合成ドラッグの大量生産に成功している」とジャーナリストのヨアン・グリロ(Ioan Grill)氏は2015年の初めに報告した。

シナロア州が位置するメキシコの太平洋沿岸地域は、古くからドラッグの製造や取引の一大拠点だった。その盛況は、合成ドラッグの生産量の増加とともに続いている。シナロア州と、より南にあるゲレロ州は、アヘンやヘロインの原料であるケシの栽培地域として知られている。

シナロア州とミチョアカン州は、いまや合成ドラッグの大規模工場の集積地となっている。国際麻薬統制委員会(the International Narcotics Control Board)は、今年始めのレポートで、2014年に131の工場が破壊されたと報告した。そのほとんどが、ガレロ州、シナロア州、ミチョアカン州にあった。

「犯罪組織は小さな工場群を丘や谷に散在させ、あたかも大きな工場を動かしているかのように、通称アイスと呼ばれる合成ドラッグを製造している。資金力のある密売人は原材料を大量に購入し、下請け業者が危険な仕事を行う」とグリロ氏は2015年1月に語っている。

シナロア州のドラッグ工場

2009年6月12日、シナロア州で見つかったドラッグ工場で、合成ドラッグの原料の横に立つ海兵隊の兵士。

Reuters

匿名の関係者がグリロ氏に語ったところによると、合成ドラッグの製造は、プラスチックの樽や発電機を人目のつかない場所に設置した仮設の工場で行われ、完成品はプラスチックのコンテナに積み込まれる。

太平洋沿いの港は合成ドラッグの原材料の輸入地点であり、同時に合成ドラッグの輸出地点と見られている。国際麻薬統制委員会のレポートによると、メキシコは東アジアから東南アジア、オセアニア地域に出回っている合成ドラッグの出どころだ。メキシコ西海岸から密輸されていることは疑いようがない。

「シナロア州、コリマ州、ナヤリット州、そしてゲレーロ州では歴史的に海上での密輸が行われてきた。また物理的なインフラや、港とメキシコの中心部を繋ぐ交通インフラ、特にメキシコシティに向かう交通インフラは、どんな取引にも不可欠。もちろん違法取引も例外ではない」とサンディエゴ大学のデイビッド・シャーク(David Shirk)教授はこの夏、Business Insiderに語った。

ドラッグカルテルの勢力範囲。

メキシコのドラッグカルテルの勢力範囲。

DEA 2015 NDTA

港周辺でのライバル争いは暴力的になり、特にゲレーロ州やコリマ州では殺人の発生率が国平均の何倍にも跳ね上がっている。

これには2つの大規模な犯罪組織である『ジャリスコ・ニュー・ジェネレーション・カルテル』とエル・チャポ・グズマンが率いる『シナロア・カルテル』が深く関わっていると見られている。この2つの組織は、地元のさまざまな犯罪グループを従えて、メキシコ西海岸——ゲレーロ州(アカプルコが有名)、コリマ州、そしてバハ・カリフォルニア・スル州とバハ・カリフォルニア州(特にティフアナ)で対立している。

この2つのカルテルはアメリカの合成ドラッグ市場を支配している。ジャリスコ・カルテルは2010年にシナロア・カルテルから分裂した際に、地元の有力者を取り込み、またシナロア・カルテルでの知識を生かして急成長した。

「ジャリスコ・カルテルにはシナロア・カルテルや他のカルテルが提供した教育のおかげで、ドラッグの不正取引の研究で博士号を取ったものもいる」と前アメリカ麻薬取締局国際業務局長(a former chief of international operations of the US Drug Enforcement Administration)のマイク・ビジル(Mike Vigil)氏はロイターに語った。

合成ドラッグは今以上に増え続ける

屋外のドラッグ工場。

2011年10月7日、ジャリスコ州で見つかったドラッグ工場で写真を取る兵士。

Alejandro Acosta/Reuters

ドラッグ工場の急増は、メキシコ当局にかなりの悪影響をもたらしている。

メキシコ当局が各工場の調査や解体にあてる費用は、5万ドル(約500万円)から10万ドル(約1000万円)に上る。また工場を解体するには、約3カ月も兵士を派遣しなければならず、その間、他の任務は行えなくなる。別の問題もある。シナロア州では、他の種類のドラッグ製造が急増しており、今年、これまでに5300のケシ農園が当局に押収された。1070だった2014年に比べ急激に増えている。

Insight Criminalによると、アメリカで大麻の合法化が進んできていることから、メキシコの犯罪組織の大麻の稼ぎが減少。それを補うために、アヘンや合成ドラッグの生産に力を入れている。

「米国で出回っている合成ドラッグは主にメキシコの秘密工場で生産され、南西の国境を超えて密輸されている。合成ドラッグは、メキシコ当局が原料となる化学物質に規制を設けたにも関わらず、ますます手に入れやすくなり、高純度で強力な大量の合成ドラッグがつくり続けられるだろう」と米麻薬取締局は2015年の報告書で述べている。

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2104年、国境沿いの地域における合成ドラッグの押収件数は上昇した。

DEA 2015 NDTA

「米国でヘロインの乱用者が増えていることは、メキシコの犯罪組織によるアヘンやヘロインの製造が急増する要因となっている」とビジル氏は今年始めBusiness Insiderに語った。

[原文:'El Chapo' Guzmán's home turf is becoming a hotbed for synthetic-drug production

(翻訳:梅本了平)