大手セキュリティ・ソフトウェア会社の創立者、ジョン・マカフィー氏。フロリダ・マイアミビーチにて。
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(編集部注:この記事の内容は執筆時点のものです)
サイバーセキュリティーの専門家であるジョン・マカフィー(John McAfee)氏は自由党の一員として大統領選に出馬している。彼が書いた論説記事を許可を得て掲載する。
1789年に制定された知る人の少ない法律「全令状法」を使い、米国政府はiOSにバックドア(セキュリティの抜け穴)を作るようAppleに要求した。バックドアがあればFBIは銃乱射事件の犯人が使っていたiPhoneの情報を解読できる。
様々な分野の専門家による数年にわたる議論——バックドアはハッカーの格好の標的になるだけなのか、または、核ミサイルの発射コードや、敵国に照準を合わせている武器の鍵を渡すこと以上に自国の安全を脅かすことになるのか——を経て、政府はまたもや、世界を破滅に導く選択をしてしまった。
これはアメリカにとって『暗黒の日』だ、あるいは、世界に冠たるアメリカの『終わりに向けての第一歩』だ。政府はすでに時代遅れになっているサイバーセキュリテイシステムの武装解除を命じた。サイバー戦争は待ったなしなのに。敵が丸腰の我々を憐れみ、優しく扱ってくれるなどと期待できるだろうか。
世界史を知る人なら「そんなことは夢に過ぎない」と言うだろう。ポーランド人が甘い声で頼んだら、ヒトラーは侵略を止めただろうか? もしそう思うなら、ヒラリー・クリントン氏を支持すればいい。彼女は中国と連携してサイバーセキュリティのプラットフォームを作ろうとしている。中国がアメリカへのサイバー攻撃を止めるはずもないのに。
笑い話もいいところだが、FBIは「バックドアは1回だけ、今回の事件にだけ使用する」と主張している。
それに対し、AppleのCEOティム・クック(Tim Cook)氏はこう返した。
「アメリカ政府は、この手段を例のiPhoneに1回だけ使うと言っているが、それは真実ではない。一度作られれば、この技術は他のiphoneで何度も何度も使われるだろう。レストランから銀行、小売店、家まで、数億の鍵を開けることができるマスターキーのようなものだ。そんなことは受け入れられない」
「政府は我々Appleに、自分自身をハッキングし、顧客を守ってきた数十年に及ぶセキュリティ技術の進歩を覆すよう求めている。数千万人のアメリカ市民をハッカーやサイバー犯罪者から守ってきた技術を、だ。ユーザーを守るために強力な暗号をiPhoneに施した技術者は皮肉にも暗号化を弱体化し、ユーザーの安全性を低めるよう命令されている」
もし、政府がバックドアの介入に成功すれば、最終的にはすべての暗号へのバックドアとなる。そうなれば世界は終わりだ。FBIは「バックドアは厳重に守られる」と言うが、そんなことは不可能だ。
Apple CEOティム・クック氏。カリフォルニア・スタンフォードにて。
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バックドアが作られたら、ろくでもないApple製品が世の中に溢れるだろう。だが、そんなものを必要とするのは政府だけだ。数百万ドルの大金、美しい女性(もしくは男性)、カリブ海への優雅なヨット旅行は、私たちの秘密をすべて手に入れた敵に奪われてしまうに違いない。
クック氏は言う。
「FBIはこのツールを別の言葉で言い表すだろう。しかし、セキュリティを回避するiOSを作ることは、バックドアを作ることに他ならない。そして政府が、ツールの使用は今回の事件に限定すると主張しても、何の保証もない」
そもそも、なぜFBIは暗号を自分たちで解読しないのか。FBIは政府内でも最高の技術力を持っているのに。
クック氏とAppleに対して失礼は承知だが、私は地球上でもっとも優秀なハッカーたちと暗号の解読を行うことができる。彼らはラスベガスのデフコン(ハッカーが腕を競うイベント)に参加し、全米各地のハッカーグループで伝説と呼ばれる人たちだ。皆、常人の理解を超える天才。もし彼らが暗号を解けなかったら、私はテレビのニュース番組で自分の靴を食べるはめになる。単純な話だ。
なぜ、地球上でもっとも優秀なハッカーたちはFBIのために動かないのか。FBIは紫色のモヒカン頭で大きなピアスをつけ、顔に入れ墨を入れて、仕事中にマリファナを吸い、年間50万ドル(約5000万円)以下では仕事をしない人物を雇わないからだ。しかし、中国やロシアはこのようなハッカーたちをもう何年にも渡って雇っている。だから私たちはサイバーレースで数十年も遅れを取っているのだ。
2011年にベルリンで行われた、第28回カオスコミュニケーション会議コンピューターハッカー大会の参加者たち。
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サイバーサイエンスは誰もが学べるものではない。天賦の才能が必要だ。ジュリアード音楽院がモーツァルトを生み出すことはできない。モーツァルトやバッハ、そして現代のハッカーたちは生来の才能の持ち主だ。スタンフォード大学のコンピューターサイエンスの卒業生たちが束になっても高校中退の真のハッカーには歯が立たない。
そこでFBIに提案する。私が無料で、私のチームとともに、例のiPhoneの情報を解読しよう。3週間あれば解読してみせる。もし私の提案を承諾してくれるなら、アメリカの終わりの始まりになるバックドアの導入をAppleに要請しなくて済む。
もし、私の実績を疑うならば、「cybersecurity legend(サイバーセキュリティー 伝説)」とGoogleで検索し、25万件以上の検索結果の最初の10件に、誰の名前が表示されるかを見てみるといい。
(翻訳:蓮)