ラム酒のバカルディが日本で販売を伸ばす —— 市場が先細る時代の秘策は、古きキューバの社交場にあった

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FUJI ROCK FESTIVALに出店したバカルディのスタンド

バカルディ ジャパン

バミューダ諸島に本社を置き、150年以上の歴史を誇る世界最大のラム酒ブランド、バカルディ。酒類の需要が下方トレンドをたどる日本で、今、販売数量を伸ばしている。その秘策は、古きキューバの社交場の再現にあった 。バカルディ ジャパンの代表取締役社長・前田章子氏に聞いた。

バカルディ ジャパンの主要ブランドの販売数量は、2016年に約48万3600ケース(1ケースは、750ml瓶が12本)。前年から12%増加した。2012年の約28万7400ケースと比べると、大幅に伸びている。牽引したのは、プエルト・リコの工場で作られるラム酒「Bacardi(バカルディ)」と、160年以上の歴史を持つスコッチウィスキー「Dewar’s(デュワーズ)」だ。

ラム酒と音楽の長い関係

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チームラボ主催イベント会場

バカルディ ジャパン

バカルディ ジャパンは、ラム酒のマーケティング戦略に音楽を積極的に使う。 前田氏によると、ラムと音楽との関係は、米国の禁酒法時代(1920年〜1933年)までさかのぼるという。当時、酒を求めて米国からキューバに押し寄せた人々は、バカルディ社が開催したパーティでラム酒を楽しんだという。その社交の場には、「Bacardi」と音楽があった。「この歴史の流れを汲んで、音楽と『Bacardi』はうまく組み合わさるのかもしれません」と前田氏(43)。

「個人がスマートフォンでプロデュースするのが今の時代。メーカーの広告に猜疑心(さいぎしん)さえ抱く消費者が多く、『口コミ』の影響は大きい。スマホを1つの放送局として、消費者がプロデュースしたコンテンツを無数のスマホが放送していく。そのための舞台装置が音楽フェスティバルなどのイベントですね」と、前田氏は話す。

2016年12月、バカルディ ジャパンはチームラボ開催した音楽フェスティバルに参画した。大阪市の「堂島リバーフォーラム」で行われたフェスティバル「Music Festival, teamLab Jungle」で、バカルディ ジャパンは「モヒート」や「キューバリブレ」などのラム酒を使った代表的なカクテルを提供した。

フェスティバルでは、カクテルをテーブルに置くと光の演出が見られる仕掛けを取り入れた。参加者をSNSへ誘導しやすくするため、デジタルサイネージの前で撮影すると、イベントのオリジナル写真が特設のFacebookのアカウントにアップロードされ、その写真を取り出せるようにもした。

「モヒート」の人気

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前田章子・バカルディ ジャパン代表取締役社長

バカルディ ジャパン

ラムの販売増加につなげる戦略として欠かせないもう1つの要素は、特定のカクテルの流行を作ることだと、前田氏は話す。例えば、ラムをライムジュースと合わせて、ミントの葉を浮かべたカクテル「モヒート」。国内では、情報誌が取り上げるなどして、数年前から夏の代表的なカクテルとしての存在感を増してきた。ラム「Bacardi」の販売数量は昨年、前年から10%増え7万3600ケースだった。

バカルディの商品で昨年、最も販売を伸ばしたのはスコッチ・ウィスキーの「Dewar’s」だ。前年から2倍近く増え、数量は9万4500ケース。過去5年間で、6倍以上増えたことになる。国内で高まる「ハイボール(ウィスキーをソーダ水で割った飲み物)」の人気が追い風になったと、前田氏は説明する。Dewar’sは、米国第23代大統領のベンジャミン・ハリソン氏が好んだウィスキーとも言われている。

バブル経済が崩壊してから、日本の酒類業界を取り巻く環境は厳しさを増している。国内の酒類消費量は、1996年度をピークに下方トレンドに乗る。国税庁のレポートによると、販売数量は2014年度、833万キロリットルで、ピークの966万キロリットルから14%減少した。

成人1人あたりの消費量は、1992年度に101.8リットルのピークをつけると、減少傾向が続く。2014年度には、80.3リットルまで減った。レポートは、「飲酒習慣のある者においても、その飲酒量は減少しているものと考えられる」としている。

市場に吹く「向かい風」は止まりそうにない。全体の需要規模が縮小する上、市場は低アルコールのものを好む傾向にあると言われている。国内の飲料メーカーは当然、低アルコール商品のラインアップを増やしている。 オフィスにバーカウンターを設けているバカルディ ジャパンは、次の「人気のカクテル」の開発を急ぐ。今年は、バカルディ主導の音楽フェスティバルの開催を検討しているという。

前田氏は、早稲田大学を卒業後、米国ダートマス大学にてMBA(経営学修士号)を取得。2015年2月にバカルディのバミューダ本社に入社した。ファッション部門を立ち上げるなどした後、2016年1月にバカルディ ジャパン代表取締役社長に就任。バカルディ北アジア・マネージングディレクターとグローバルにおけるファッション部門の責任者を兼務する。バルカルディ ジャパンの製品は、サッポロビールが販売契約に基づいて販売している。

プエルトリコ蒸留所外観

プエルト・リコの蒸留所

バカルディ ジャパン

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