一風堂の豚骨ラーメン原点の味「白丸元味」
力の源ホールディングス
ラーメンの「一風堂」を展開する力の源ホールディングスは、当時、博多駅前で5坪のレストランバーを経営していた河原成美氏が「女性でも入店できる『クール』なラーメン店を開く」と決心し、1986年に創業したラーメン・チェーンだ。今では、ニューヨークやパリなどの海外の主要都市で65店舗を展開し、年間売上200億円を稼ぐ。一風堂は、都市ごとにラーメンのメニューを変えることで、世界で「Ippudo」ファンを増やしてきた。そのメニュー戦略を力の源グローバルホールディングス・副社長の鈴木康義氏(65)に聞いた。
ニューヨークが生んだ「クラムチャウダー Ramen」
力の源ホールディングス
ニューヨークは一風堂が2008年に海外で初めて店を構えた都市である。流行の変化は最速と言われるニューヨークで、一風堂が仕掛けた戦略の主軸は、「味の進化」と「スピード」だ。マンハッタンで同一のメニューを長期間提供しないという一風堂は、今まで400以上のスペシャルメニューを期間限定で開発してきた。
「(ニューヨークでは)味の見直しと変更をウィークリーでやってきた。舌は刺激に慣れれば、その刺激を刺激として感じなくなる」と鈴木氏は語る。
ニューヨーク展開の中で生まれたヒット商品が、「クラムチャウダー Ramen」だ。アサリの旨味を生かしながら、ホワイトソースをベースにしたスープに、平打太麺を合わせた一品。このメニューはその後、シドニー、東京、香港の店舗でも販売された。
2016年12月、セブン&アイと日清食品は共同でこのメニューをカップ麺として販売を開始。商品は「セブン・プレミアム IPPUDO NY クラムチャウダーヌードル」と名付けられた。
“難関の地”パリで開発した「茸(きのこ)香るベジ麺」
力の源ホールディングス
いちばんの“難関の都市”はパリだった、と鈴木氏は話す。
「どのマーケットもそれぞれに難しさがあるが、パリは特に難しい。本格進出の前にイベントも行い、色々なラーメンへの評価を見てきた」と鈴木氏。
試行錯誤する中、一風堂はパリの市場(マルシェ)で仕入れが可能な上質な材料からダシを取り、パリならではのスープを開発することを決める。
開発されたメニューは、動物性の食材を使用しないベジタリアン・ラーメン、「茸(きのこ)香るベジ麺」だった。数種類の茸と昆布からダシをとったスープに、パプリカ粉を混ぜた麺を合わせた。フランス南部の郷土料理「ラタトゥイユ」と、ビーツやフェンネルをトッピングに加えた。チャーシューの代わりにエリンギを使った。
一風堂は、「茸香るベジ麺」を東京・銀座店でも限定的に販売した。鈴木氏によると、パリでこのメニューを食べた客たちが訪日した際、このラーメンを求めて銀座店に並んだという。
香港の「エビ豚ラーメン」
力の源ホールディングス
鈴木氏によると、パリと並んで味に対して敏感で市場の競争が激しいのが香港だという。
日本の繊細さと香港の食文化を融合させたいと考えた一風堂は、商品の販売を期間限定化する戦略を香港市場でも活用し、客を惹きつけることに重点を置いた。
2016年後半に3カ月間、限定販売したのが「エビ豚ラーメン」だ。
香港のローカル食材であるエビを5種類使用したエビのビスク(クリーミーなスープ)と、豚骨スープをブレンドし、塩度(塩分)を抑えたスープを開発。海老子と海老の粉を混ぜ込んだ麺を合わせた。トッピングに、クルマエビの一種である「ブラックタイガー」と海老のワンタンを使った。
「豚から鶏へ」、シンガポールの鶏白湯スープ
力の源ホールディングス
シンガポールやマレーシアなど東南アジアの一般的な料理として知られているのは「ハイナン(海南)チキンライス(茹でた鶏肉と茹で汁で調理した白米を皿に盛りつけた料理)」。宗教上の理由で牛肉や豚肉を食べない食習慣が、鶏肉料理が好まれる背景を作っている。
力の源ホールディングスは、シンガポールにおいて豚骨ラーメンを主力商品とする「一風堂」を展開する一方、ニューヨークでスタートさせた鶏白湯スープの「黒帯」ブランドをビジネスの柱の1つに置いている。
鶏だけの旨味を引き出す鶏白湯スープに、モチモチとした太麺を合わせたメニューが「Kuro-Obi」だ。トッピングには、鶏肉を使用し豚は一切使用しない。
シンガポール市場には2009年に参入。アジアのみならず欧米からも人が集まる同国の特徴に対応し、同社はダイニング・スタイルやエクスプレス・スタイルなど販売の方法を多様化させている。
創業から引き継ぐ「白丸元味」
力の源グローバルホールディングス副社長の鈴木康義氏
BUSINESS INSIDER JAPAN
一風堂の豚骨ラーメン原点の味が「白丸元味」である。
そのスープは、18時間の調理と丸一日の低温熟成を経て作られているという。鈴木氏によると、一風堂は半年ごとにこの原点となるメニューの味を見直し、わずかな変更を行っていると話す。
力の源は2014年12月、クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)から7億円の出資と最大13億円の融資枠を受けることで合意。欧米豪において日本食ブランドの確立を支援するクールジャパンの目論見に合致した案件だ。
力の源は1月末時点、海外で65店舗、国内で105店舗を展開する。鈴木氏によると、2020年までに海外店舗を200まで拡大する方針だ。
日本国内の外食産業は、上昇トレンドに乗っているものの、需要の伸び幅は限定的だ。日本フードサービス協会のデータによると、外食市場規模は2015年、推定で25兆1800億円。前年比2.2%増え、4年連続で増加している。しかし、1997年に記録した29兆円の水準からは程遠く、「失われた20年」と言われる期間で約4兆円の需要が消えた。食堂やレストランなどの飲食店が市場の半分を占めており、2015年は13兆4965億円。97年の13兆4406億円と比較すると増加幅はわずかだ。
一風堂は現在、ミャンマーでの初出店を検討している。進出する国の数が増加する中、一風堂の新市場でのメニュー戦略に注目が集まりそうだ。