日系のハーバード大学生、トランプ政権下で不法移民として暮らす心境を語る

タナカ氏と両親

タナカ氏と両親

Daishi Tanaka

ハーバード大学2年生のダイシ・タナカ(Daishi Tanaka)氏は、彼のクラスメートたちと変わらない学生生活を送っている。

タナカ氏は過酷な量の課題をこなしつつ、「Act on a Dream」と呼ばれる学内の学生団体の共同部長としての責務もこなしている。「Act on a Dream」は、移民問題についての団体だ。

しかし、移住証明書のない(undocumented)移民としてアメリカに住むタナカ氏は、自分の未来に対して一抹の不安を抱えている。それは、彼の学生仲間は感じることのない不安だ。

例えば、次にいつ両親に会えるのかわからない不安がある。彼の両親は13年の在米生活後、昨年夏にアメリカを去った。大統領選挙中、移民に対する否定的な発言が加速していた最中のことだった、とタナカ氏は語る。

彼の父親は日本へ、母親はフィリピンへと渡った。双方で移住に関する手続きを進めており、家族が同じ国で住めるよう努力している。彼の両親はアメリカへの再入国を10年間禁じられている。

また、タナカ氏は Deferred Action for Childhood Arrivals program(若年不法移民向け在留合法化プログラム。略して DACA)による保護を受け続けることができるかわからないと言う。オバマ政権下で制定されたこの移民政策は、16歳以前にアメリカに入国した移民証明書を持たない子どもを一時的に保護するものだ。

「DACAはなくなるかもしれない」。タナカ氏はBusiness Insiderにそう語る。「トランプ大統領はDACAを無効にして、不法移民学生に対する保護を撤回するかもしれない。非常に緊迫した事態だ」

25日水曜日(現地時間)、トランプ大統領は不法滞在移民に対する2つの大統領令に署名した。1つはメキシコとの国境に壁を建設するもの、もう1つは不法移民を黙認する、いわゆるサンクチュアリーシティを罰するものだ。

政府が移民の強制送還を進めるにつれ、タナカ氏のような学生は、大学に「サンクチュアリー・キャンパス」を宣言するよう助けを求めている。

まだ助けは来ていない。果たして来る日はあるのだろうか。

故郷のように感じた

心境を語るタナカ氏

心境を語るタナカ氏

Daishi Tanaka

タナカ氏は日本生まれだが、2004年に渡米した。フィリピン人である母と、日本人である父と一緒に、旅行者ビザで入国した。渡米した時はまだ6歳だったにもかかわらず、彼はアメリカという国に、すぐさま“恋に落ちた”ことを覚えている。

「どういうわけか、アメリカを故郷のように感じたのです。そこで生まれたわけではないのに」

彼は小学校に入学し、3カ月で英語を覚えた。今でも彼の中に残る思い出は、小学校での初めての経験だ。

「いろんな体型や身長、肌の色、生い立ちを持った子どもたちが、1つの旗の下に集まっているのを見たのです。皆がお互いの個性と多様性を尊重し、調和しているその光景に真摯に心を打たれ、この国の美しさを知りました」

その後、タナカ氏は学校生活にも慣れ、実力を発揮するようになる。学校生活はとても幸せで、勉強を続けたいと熱望した。彼の両親は、一度アメリカに来てしまえば、市民権が得られやすくなるはずと信じていた。その後、彼らは滞在を延長するにはどうすればよいかを弁護士に相談し始めた。

しかし、一度に全員の市民権を得るのは難しいと伝えられた。母親と父親がそれぞれ違う国の市民権を持っているからだ。それぞれ母国、タナカ氏と彼の父は日本へ、彼の母はフィリピンへ帰る必要があった。またアメリカで再び一緒に住める保証はなかった。家族はアメリカに残ることを決意した。不法移民としての人生は辛いものだとわかっていた。しかし、少なくとも家族は一緒に居られた。

2級市民のようだった

子どもの頃も、思春期になってからも、タナカ氏は自分が不法移民であることに明確には気づいていなかった。しかし、両親にできないことが存在すること、例えば、運転免許証を取ることや、家を買うことなどができないことには気づいていた。

「わたしの家族が2級市民のようだったことは、なんとなくわかっていました」

ハーバード大学には移民証明書を持たない学生向けの奨学金制度がある

ハーバード大学には移民証明書を持たない学生向けの奨学金制度がある。

Daishi Tanaka

また、彼らは毎年引っ越さなければならなかった。両親が職を求めて移動するたびに、タナカ氏は学校を転校しなければならなかった。

「わたしたちの社会的身分のせいで、安定した生活はできませんでした」

しかし、タナカ氏が幼少期を振り返って話すのは、不法移民としての身分から生まれた問題だけでなく、それがどのように彼自身を成長させたかも含まれる。その経験により「機転がきく、独立心のある人間になれた」と彼は話す。

タナカ氏の不法移民としての状況は、大学出願の機に明確になってきた。社会保障番号や法的地位がない状況では、FAFSA(連邦政府による学生援助の無料申請:アメリカの奨学金制度)を申請できず、連邦政府に受給資格を示すことができなかったのだ。

タナカ氏の場合は、学業成績が優秀だっため、問題が解決された。ハーバード大学に合格し、不法移民も留学生も応募可能な奨学金を得ることができた。

しかし、不安は常につきまとう。「高校で一生懸命頑張っていても、後々、仕事に就けないのではないかと思う時もありました」

サンクチュアリー・キャンパスに望みを託す

ハーバード大学

ハーバード大学

Janias Tobias Werner/Shutterstock

アメリカ全土でDACAの承認を受けた不法移民の若者は、約80万人存在する。その中の多くの若者が、アメリカ以外に故郷と呼べる場所を持たない。

2012年、オバマ前大統領によって生み出された DACA は、不法移民の若者を強制送還から保護し、社会保障番号を与えて合法的に働けるようにするものだ。また、州によるが、州内授業料が適用されることもある。

ハーバード大学では、タナカ氏は比較的マイノリティーの部類に入る。約6700人の学部生の中で、およそ40人に1人が不法移民の学生だ。

全体としての数は少ないにもかかわらず、不法移民の学生の多くは、サポーターと権利擁護を訴える人たちとともに、ハーバード大学がサンクチュアリー・キャンパスであることを宣言するよう訴えかけている。

ハーバード大学がサンクチュアリー・キャンパスとして指定されれば、学生を基本的に3つの方法で保護することができるとタナカ氏は言う。1つは、当局に尋ねられても、不法移民学生の情報公開を拒否することができる。2つ目は、大学のガードマンは、不法移民学生を拘束、または強制送還しようとする連邦職員の支援要請を拒むことができる。3つ目は、連邦職員がキャンパス内に入る場合、法的な許可証を要求することができる。

しかし、学生たちの努力も苦難に直面する。昨年12月、ハーバード大学学長のドリュー・ファウスト( Drew Faust)氏は、宣言自体が不法移民学生を傷つけかねないとし、宣言は行わないと発表した。

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Daishi Tanaka

The Harvard Crimson によると、「宣言は我々の生徒を守るよりも、むしろ危険に晒すと考えます。そして、それはわたしがこの教育機関に望むようなことではない」とファウスト氏は述べた。

生徒にとっては苦痛だったろう。特に他のアイビーリーグ校 ―― トランプ大統領の母校であるペンシルバニア大学など ―― が宣言するとしている中では。

「サンクチュアリー・キャンパスとして宣言しない決断を下したハーバード大学には、非常にがっかりしています。現時点では、方針を変える可能性はとても低いだろう」

Business Insiderがハーバード大学に対してコメントを求めた際、同大学はファウスト氏の文書を参照するよう伝えてきた。文書の中でファウスト氏は、ハーバードの全学生を支援すると約束し、「彼らに明確で率直な支援をしていくことを再度断言する」と誓った。

DACAの運命も極めて薄弱なままだ。トランプ大統領は撤回するとしたものの、先月、DACAの保護を受けている不法移民の若者は「対策を考える」との見解を示している。とはいえ、水曜日の大統領令は、移民に対する厳格な姿勢を見せており、DACAの保護下にある人たちはその行く末が懸念される。

おそらく、サンクチュアリー・キャンパスの指定を受けても、この懸念が消えることはないだろう。ファウスト氏も、その言葉には何の法的効力もないと言っている

しかし、タナカ氏にとってサンクチュアリー・キャンパスの指定は、大学から外の世界に向けて送るメッセージとして重要なのだ。

そのメッセージの意味は「大きな政治的影響力と資金を持ち、名声を持った大学が、正しいことしているという姿勢」だと同氏は語った。

[原文:A Harvard student explains what it's like to live in America illegally now that Trump is president

(翻訳:Wizr)

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