NASAが秘密にする巨大望遠鏡の謎

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NASA's Goddard Space Flight Center

(編集部注:この記事の内容は執筆時点のものです)

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2016年11月2日(現地時間)、巨大な金の鏡の完成を発表した。87億ドル(約9000億円)をかけたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の開発ミッションにとって大きな節目となる。

これを記念して、NASAゴダード宇宙飛行センターはYouTubeにJWSTの動画を公開した。

「アメリカ、カナダ、ヨーロッパの何千人もの人々の約20年にわたる努力によってこの節目を迎えることができた。ここに至る道のりは平坦ではなかった。JWSTの開発という、宇宙物理学者たちの夢を実現するには、これまで存在しなかった技術を生み出し、完成させる必要があった。それがいま、完成したのだ」

動画は、こうした革命的な技術のうち、軽量なサポート構造やセンサーを紹介している。

しかし、我々はJWSTの極めて重要な部分(動画再生から1分30秒あたり)がぼかされていることに気付いた。

問題の箇所に印をつけた静止画

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NASA's Goddard Space Flight Center; Business Insider

少し拡大した静止画

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NASA's Goddard Space Flight Center; Business Insider

我々はJWSTの担当者リン・チャンドラー(Lynn Chandler)氏にこの静止画を見せ、なぜ赤で囲まれた部分がぼかされているのか尋ねた。

これに対し、チャンドラー氏は「この部分に用いられている技術は特許にあたるものであり、政府は開発パートナーの知的財産権を守らなければならない」と回答した。

そこで我々は、ぼかした部分を開発した企業名やその部分の技術的な詳細、JWSTのミッションにおける役割について質問した。

チャンドラー氏は「ぼかした箇所は、副鏡を載せる構造の部分だ」と答えた。

参考までに、下の写真は金でコーティングされたJWSTの副鏡だ。巨大な主鏡の光を取り込み、望遠鏡の内部にある3つめの鏡の上の1点に集める。そして光はそこから測定器類へと導かれる。

副鏡の裏側のぼかされた部分は、矢印で示されたところだ。

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NASA's Goddard Space Flight Center; Business Insider

NASAは、ぼかした部分の開発企業に関して、その情報は「武器国際移転規則(ITAR)」に抵触するとして回答を拒否した(ITARについては後述)。

しかし、ノースロップ・グラマンがJWSTの基本設計を担った主契約企業で、ボール・エアロスペース&テクノロジーズが副鏡を作ったことはわかっている。

ノースロップ・グラマンの担当者ロン・レインズ(Lon Rains)氏は、質問はNASAに直接してもらいたいと述べ、それ以上のコメントを拒否した。 ボール・エアロスペースからは返答はない。

なぜ鏡が武器なのか?

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NASA

税金を使って開発された科学的な観測衛星の鏡の裏側が、なぜ武器として規制されているのか?

おそらく、スパイ衛星が関係している。

事実、ハッブル宇宙望遠鏡と同程度の性能の望遠鏡があれば(JWSTに比べたらまだ10〜100倍も不鮮明だが)地球上の人間の活動を監視することができる。そして米国政府は中国やロシアといった国の軍事力を上回る、何らかの強みを維持したいと考えている。

もしあなたが米国で、もしくは米国のために、自作の宇宙服を含め、わずかでも武器とみなされる可能性があるものの開発に取り組んでいるなら、国務省の「武器国際移転規則(ITAR)」を確認した方がいい。さもなければ、最高で109万4010ドル(約1億2000万円)を支払い、刑務所に入ることになるかもしれない。

ITARの専門家を組織内に置くことは、宇宙関連技術を扱う組織にとって常識だ。今回も、おそらくNASAに在籍する専門家が動画をチェックし、違反を避けるために「この部分はぼかした方がいい」と言ったのだろう。

「米国政府が発表する宇宙関連のハードウェアの詳細については、基本的に注意が必要だ」とJWSTの開発ミッションと緊密な関係にあるメリーランド州ボルチモアの「宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)」の天文学者Anand Sivaramakrishnan氏はBusiness Insiderに語った。

ITARの規制があるため、「もし自分の部屋に宇宙関連のハードウェアがあったら、外国人を部屋に入れるわけにはいかないし、もちろん触らせるわけにはいかない」とSivaramakrishnan氏は続けた。

隠されているものは?

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NASA's Goddard Space Flight Center

航空宇宙産業に従事していないわたしたちも、100万ドル(約1億円)を課されるようなITAR違反はしたくない。

それでも、鏡の後ろに何があるのか、一般的に説明することはできる(NASAの動画には、副鏡の裏側が見える瞬間がある)。

それは何か?

Sivaramakrishnan氏は、鏡の後ろにあるのはおそらく鏡を支える構造部分と、それを動かすアクチュエーター群だと言う。

自動車を運転したことがあれば、サイドミラーを動かすアクチュエーターはわかるはずだ。サイドミラーの調整ボタンを動かしたときに音がするのがそれだ。 ただ、自動車のアクチュエーターは通常2つしかなく、左右、上下の2方向にしか動かないが、JWSTの鏡は6方向に動く。

Sivaramakrishnan氏によれば6つのアクチュエーター群は「ヘキサポッド(hexapod)」と呼ばれている。

「コンピュータのキーボードを宇宙へ持って行って宇宙空間に置いた時、その位置を示すには6つの数字が必要だ」と彼は説明する。上下、前後、左右とそれらの回転方向だ。「鏡を正確な場所に置くには、正しい位置を特定する必要がある。それがヘキサポッドだ」

宇宙望遠鏡に求められる正確さは気が遠くなるほどだ。JWSTには金でコーティングされた19枚の鏡があり、1枚1枚にヘキサポッドがついている。

Sivaramakrishnan氏は、JWSTの主鏡の誤差は140ナノメートル以内、HIVウイルスよりもわずかに大きい程度で、それ以上になると焦点と露出に大きな問題が生じる可能性があると語った。

JWSTでこれを行うために必要なハードウェアは「素晴らしいもの」であり、「詳細はこれ以上話せない」

つまり、もっと詳しく知りたければ、航空宇宙工学の学位を取得して、NASAかNASAと取引している会社で働くしかなさそうだ。グッドラック!

[原文:NASA is trying to keep part of its giant golden telescope a secret

(翻訳:蓮)

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