アカデミー賞ノミネート作品『ズートピア』に隠されたトランプ大統領へのメッセージ

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"Zootopia."

Disney

劇場公開されるまでに様々な変更が行われた結果、『ズートピア』は企画当初とはまったく違う映画になった。

構想に2年を費やしたあと、監督のバイロン・ハワード(Byron Howard)とチーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセター(John Lasseter)、作品について率直な意見を提供するディズニーのクリエイターたち(「ストーリー・トラスト」と呼ばれている)は大胆な決定を下した。主要キャラクター2人の設定を変更し、それに合わせて話を完全に作り替え、『ズートピア』に新しいメッセージを加えることにしたのだ。

この映画には、人間の服を着て人間の言葉を話す動物たちが、捕食者と被捕食者の別なく共存するという設定がある。ラセターはこの設定をいたく気に入ったが、主人公のニック・ワイルドと名付けられたキツネ(声:ジェイソン・べイトマン(Jason Bateman))が少し暗く、皮肉屋すぎることに不満を持った。

そこでディズニーは公開から1年半前のタイミングでニックを助演に降格、元助演のジュディ・ホップスという名のウサギの警官(声:ジニファー・グッドウィン(Ginnifer Goodwin))を主役にした。

この決定のタイミングは、周囲から作品の完成が危ぶまれるほどに遅いものだったが、結果的に『ズートピア』は興収的、批評的に絶賛される作品となった。この映画は世界中で100億ドル(約1兆1500億円)以上の興行収入を稼いだ。ディズニーにとっては思いがけないヒット作になったと同時に、年末の多くのベスト映画リストにも登場した。メジャーな映画賞としてはゴールデン・グローブ賞を獲得、さらにアカデミー賞 長編アニメーション部門の最有力候補にもノミネートされた

しかし、おそらく『ズートピア』の成功においてもっとも強力な要素はそのメッセージ性だろう。ドナルド・トランプというビジネスマンが第45代アメリカ大統領になった今、そのことの意味はかなり大きい。『ズートピア』は奥行きのある魅力的なキャラクターと素晴らしいアニメーション表現というディズニー映画特有の特徴を持つ傑作だが、観客と批評家の心を捉えた最大の要因は、偏見や人種差別といったアメリカの社会問題に対する批判精神を盛り込んだことだ。

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ゴールデン・グローブ賞の授賞式に出席したバイロン・ハワード(左)とリッチ・ムーア(右)

Frazer Harrison/Getty

「わたしたちはこれらの深刻なテーマを真剣に掘り下げた。若者にとって、こうしたテーマの映画は、現実に備える意義を持った“大人のおとぎ話”になり得るんだよ。わたしたちはこの作品で、人生における危険や落とし穴とはどのようなものかを表現し、一方で、希望という感情を若者たちに示したいと考えたんだ」。このように話すのは、製作期間の後半に『ズートピア』の監督となった“ストーリー・トラスト”のメンバーの1人、リッチ・ムーア(Rich Moore)だ。

人種と階級の問題に立ち向かうというアイデアは、ドナルド・トランプが大統領選への出馬を発表するずっと前、つまり、製作の早い段階から出ていた。その頃、製作責任者たちは野生動物の生態を観察するためにケニアを訪れ、そして、その重いテーマを軸にアニメーション映画を製作しようと決心したのだった。

リッチ・ムーアは言う。「クリエイターたちは水飲み場にいる動物たちを観察していた。捕食者と被捕食者が同じように水を飲み、調和の中で生きている瞬間だった。そこには「皆が水を必要としている」という“社会的な合意”があった。そして、それは人間社会によく似た“動物社会の興味深い共通点”だと感じたんだ。世の中には、自分と意見が一致せず、異なる見解を持つ人々がいる。しかし、わたしたちはそうした問題をいったん隅に置きつつ、彼らと一緒に生きている。そうしているからといって、感情を失って生きているわけではない。わたしたちは、『ズートピア』が「不正」「差別」、そして「人種問題」についての物語だったらどうだろうかと考えたんだ。『ズートピア』を単なる面白い動物アニメにはしたくなかったんだよ」

リッチ・ムーアの思いとは裏腹に、当時、主人公だったニック・ワイルドの性格付けは誤った方向に進んでしまっていた。そのため、『ズートピア』という都市を“多様性の坩堝”として描くことが難しくなってしまっていた。「テーマと作品のバランスを取ることに苦労していたんだ。わたしには『ズートピア』がとても抑圧的な街に感じられた。わたしたちは『この街には確かに問題があるものの、根っこのところでは最後に良くなっていく』というポジティブな感覚を観客に与えたかった。でも、当時のバージョンでは『ズートピア』はとても悪い街のように感じられた。なぜならそこには、社会に抑圧され、人々から嘲りを受けるニックが物語の中心にいたからだ」とムーアは語る。

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『ズートピア』のニック・ワイルドとジュディ・ホップス。

Disney

最終仕上げを行うという、まさに製作の最後の段階で、『ズートピア』の構成は大幅に、そして全面的に見直された。製作者たちは、ウサギのジュディを主人公にして、この映画を救う試みを開始した。理想主義者のウサギ(被捕食者)は、大きなトラやオオカミ、ゾウら(捕食者)で溢れている警察に入ることを決心する。彼女はもはや男性の相手役に頼らず、様々な問題を解決していく。

クリエイターは作品が説教臭くなることを嫌うものだ。『ズートピア』のもう1の人監督であるバイロン・ハワードも「僕たちは、映画の結末を“ジュディ・ホップスが人種問題を解決した”といったものには絶対にしたくなかった」と言う。

ドナルド・トランプの人種差別的な発言によって議論を招いた先の大統領選挙以来、この映画は、異なる価値観を持ったコミュニティが団結するにはどうすれば良いのか、といった問いに対する重要な答えを示すことになった。

「ドナルド・トランプが大統領であっても、あるいは、あなたがどんな政治的立場であったとしても、僕たちは将来の世代に対して、共に働き、理解し合おうとすることについて、正しい判断を下す義務がある。この映画が言おうとしているのはそういうことだと僕は考えている」とバイロン・ハワード。

リッチ・ムーアが付け加える。「わたしは今後数年のアートの動向にとてもワクワクしているんだ。いつの時代もアートはその当時の世相や世の中への批判を反映する。今後、4年(次の大統領選は2020年)の間に、わたしたちはどんな本、どんな絵画、どんな音楽、どんな映画を観ることになるんだろうね。とても楽しみだ」

実際、『ズートピア』はすでに「とあるアーティスト」にインスピレーションを与えた。2016年のツアーの最中、キャット・スティーブンス(Cat Stevens)ジュディが『ズートピア』の終盤にするスピーチを引き合いに出してショーを終えた。

「彼は『Peace Train』を演奏する前にスピーチをした。キャット・スティーブンスがあんなスピーチをしてくれるなんて、想像もしなかったよ」。ムーアは1970年代のスティーブンスのヒット曲に言及しながら言った。

「まあ、ささやかなことだけどね」とバイロン・ハワードは言った。

(敬称略)

『ズートピア』はNetflixで配信中(日本版では未配信)

[原文:The Oscar-nominated 'Zootopia' has a hidden message for President Trump

(翻訳:須藤和俊

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