Paolo Woods & Gabriele Galimberti—INSTITUTE
1%の超富裕層が地球上の富の50%を保有していることは紛れもない事実だ。下位50%の人たちが所有している富はたった1%に過ぎない。
アメリカのトップCEOたちは平均的な労働者の約350倍を稼ぐ。2015年、25人の最も高給取りであるヘッジファンドマネージャーたちの給料の合計額は130億ドル(約1.3兆円)にも上った。これは平均して各自5億ドル(約500億円)以上稼いでいる計算だ。
フォトエディターであり、キュレーターであるマイルス・リトル(Myles Little)氏は著書「1% Privilege in a Time of Global Inequality」とその展示会で、様々な写真家のコレクションを通して、この複雑な問題を検証している。
「人々に経済の平等、優先課題、そして社会における価値について話し合ってもらいたい」とリトル氏は語る。
「私たちは正しいヒーローを支持しているだろうか。必要な人たちにきちんと対応しているだろうか。わたしたちの思いやりは誤った方向へ導かれていないだろうか」
超富裕層の排他的な世界を映し出すこの写真展の来訪者に、リトル氏は問いかける。
リトル氏は、どのような経緯でこのプロジェクトを始めたのだろうか?
メキシコのオアハカで休暇中、この展示会のアイデアを思いついたとリトル氏は言う。そしてキュレーター仲間と、写真や富、不平等について議論し、その3本の軸にあてはまるような作品を集め、展示会を開いた。
「Varvara in Her Home Cinema」は、ロシアにおいて、生まれながらにして特権を持つというのはどういうことかを映し出す。リトル氏によれば、撮影した写真家スクラッドマン(Skladmann)氏はこの作品を「逃げようとする蝶々」と喩えたと言う。
"Varvara in Her Home Cinema," Moscow, 2010, from Anna Skladmann's series "Little Adults"
Anna Skladmann
この写真はアパラチアにおける炭鉱産業の文化と環境への影響をテーマにした「Removing Mountains」というシリーズ作品の中の1枚だ。リトル氏は不穏な空気感をこの作品の中に感じたことから選んだ。「消費と特権による環境的な代償」について考えさせる作品であると彼は語る。
「代償は立派な並木に隠れて見えづらくなっているかもしれない。しかし、実際は風下に住む人々に影響を与えているのです」
"Cheshire, Ohio," 2009, from Daniel Shea's series "Removing Mountains"
Daniel Shea
この写真はタンザニアのダイアモンド鉱山で撮影されたものだ。作品のシリーズの中で写真家のデビッド・チャンセラー(David Chancellor)氏は、鉱山の近くに住まざるを得なくなったり、ダイアモンドの粉や原石の痕跡を求めて岩中を這い回る地元の困窮した人々を捉えている。
「贅沢、採掘による環境的な代償、そして特権が疑問視された時にもたらされる強大な暴力。すべてがこの1枚に完璧に凝縮されているところが気に入っている」とリトル氏は語る。
"Untitled # IV," Mine Security, North Mara Mine, Tanzania, 2011, David Chancellor/kiosk
David Chancellor - kiosk
リトル氏は「タブロイド紙やハリウッド映画で見られるような典型的なセレブのイメージをあえてこの展示会に持ち込まない」というこだわりを持っている。この写真は2008年の「Paradise Now」というシリーズ作品から選ばれた1枚で、アジアの大都会が放つ人工的な照明によって光る自然を映している。
「素晴らしく熱狂的で、経済的な活動を見てもらいたかった。経済において欠かせない労働、生産力、真摯な働きぶりといった要素をこの展示会に盛り込むことはとても重要だ」
"Paradise Now Nr. 18," 2008, from Peter Bialobrzeski's series "Paradise Now"
Peter Bialobrzeski
さらにリトル氏は「ありきたりな表現方法や悪役、金持ちの銀行員などは避けたかった」という。この上海の写真について「一番好きな部分は富と貧困、そして美と破滅が隣り合わせであることを非常にパワフルに捉えていること」と語る。
「美しく、貴重な作品を集めてこの展示会を開きたかったんだ」
"Shanghai Falling (Fuxing Lu Demolition)," 2002, Greg Girard
Greg Girard
この写真では、シンガポールの金融街の空を背景に、1人の男がマリーナベイサンズホテルの57階のプールに浮かんでいる。
2013, Paolo Woods and Gabriele Galimberti/INSTITUTE
Paolo Woods & Gabriele Galimberti—INSTITUTE
「Hollywood, California」という写真は、アメリカの西部開拓時代のアイコン的な風景を収めた本の中の1枚だ。
「ハリウッドの金銭的、文化的な力の象徴を突き放した、あるいは、迎合しないスタンスで間近に捉えようとしている」点に引きこまれたとリトル氏は言う。
"Hollywood, California," 2007, from Jesse Chehak's book "Fool's Gold"
Jesse Chehak
ネバダ州ヘンダーソンにあるゲート付き住宅地の航空写真。この作品はリトル氏に持続可能性とは何かという疑問を訴えかけたと言う。
「特権による環境的な影響について訴えかけている作品。ネバダの砂漠の中でもこんなにきれいな緑色をした芝生を維持するためには沢山の水が必要になる。この風景の中に住宅地区が存在するのは少し異質な感じがするし、僕は個人的に一体どのくらいこれが持続できるのかということを疑問に感じる」
"Roma Hills" Guard-Gated Homes Looking East; 3,000-8,000 sq feet, Henderson, NV; 2012 © 2012 Michael Light, from Lake Las Vegas/Black Mountain, Radius Books
Michael Light, from Lake Las Vegas/Black Mountain, Radius Books
「弱者が強者を賞賛する光景は、アメリカではよく目にする」とリトル氏は語る。
「僕はこの写真に映る男性を批評するつもりはないが、僕の目にはこの背景にあるより大きなメタファーが映った」
"Legless Star Cleaner on the Hollywood Walk of Fame," 2005, Juliana Sohn
Juliana Sohn
リトル氏はこの「Chrysler 300」という写真について、注目すべきはその素晴らしい色彩や質感だけでなく、オートメーションと中流階級層の人々に与える影響について、問題提起をするきっかけを与える作品であると考えた。
「中流階級への圧力について話すことも大切だが、その上でオートメーションについて話すことはとても重要だと思っている。我々は驚くべき技術を生み出してきた。ここに写っているロボットたちを造り出せるような技術を。しかし、それが常にわたしたちの生活に良い結果をもたらすとは限らない。我々人間の仕事は、もうこれからあまり増えることはないだろう」
"Chrysler 300," 2007, Floto+Warner
Floto+Warner
「Projector」という作品は、ユタ州ウェンドーバーやネバダ州ウェスト・ウェンドバー近隣の新しく建てられたカジノや衰退していく軍事施設などが収められている写真集の中の1枚だ。
「とてつもなく魅惑的でギラギラした願望の象徴であるとともに、幻想のようでもある。先につながる扉はなく、上のない天井でしかない。始まりではなく、終わりだ」
"Projector," 2012, from Mike Osborne's book "Floating Island"
Mike Osborne
この写真は、ニューヨーク市の1人の伝道者がウォールストリートに対して、犯した罪を悔いるように抗議をしている。リトル氏の見解では、これは「アメリカ経済を表す象徴的な写真」だ。
リトル氏は富裕層と同じような視点から、見る人に話しかける作品を意図的に選んだ。
「この展示会は排他性や特権をテーマにしている。だからこそ、僕は特権と富を、富裕層や特権階級式の専門用語を使って批判している」
"A Street Preacher in New York Appeals to Wall Street to Repent," 2011, Christopher Anderson/Magnum Photos
Chris Anderson - Magnum Photos
信じがたいほどの退廃主義はさておき、リトル氏はモンテカルロのオペラハウスが「高いリスクとたくさんの金」の集まる場所、カジノの中にあるという部分が気に入ったと言う。
"Opéra de Monte-Carlo," Monte Carlo, Monaco, 2009, David Leventi
David Leventi
「富裕層の全員が悪人だとは思っていない。それがニューヨークのハイラインパークの写真を含めた理由だ。この場所はあるお金持ちの巨額の寄付によって作られた。この街に加わった本当に素晴らしい場所だ」
"The Highline: Above 34th Street Eastward," 2004, Jesse Chehak
Jesse Chehak
リトル氏はアメリカの教育システムについて言及するために、このハーバード大学の写真を展示会に加えた。
「教育格差について話すことは非常に重要なことだ。幼稚園から高校までのプログラムでは、住んでいる地域や出自によって失敗と成功が決まってしまう。アメリカにトップ大学が集中する傾向があることは事実だろう。しかし、質が良くない上、多額の学費を学生たちに請求するような大学もまたアメリカには山ほど存在している」
"Harvard University," 2006, Shane Lavalette
Shane Lavalette
[原文:Incredible photos give a totally unexpected perspective into how the 1% lives]
(翻訳: 宮脇 真綸 )