"幻覚体験"の真実 —— LSDなどの幻覚剤、超微量薬物投与(マイクロドージング)の研究成果

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6年近く、精神科医のハンフリー・オズモンド(Humphry Osmond)氏は何千人ものアルコール依存症患者にLSDを処方した。

その治療法は、オズモンド氏が1954年から1960年にかけて試験的に行った投薬養生法だ。同氏はアシッド(LSDの俗称)の幻覚体験が振戦せん妄(しんせんせんもう)の症状(俗に言う禁断症状)を模倣する可能性があると考えた。振戦せん妄とは、慢性アルコール中毒患者が飲酒をやめた際に見られる精神状態のことであり、ショックを受けた患者は再び酒に手を出すことをしなくなる。

しかし、患者を恐怖に落とし込む代わりに、LSDの幻覚体験 —— 強力な幻覚症状を引き起こし、8時間から14時間に及ぶ体験 —— は患者の人格にポジティブで持続的な変化をもたらすと見られた。幻覚体験の何かが「患者の人格と人生を立て直す」のを促したように見える、とニューヨーク大学精神科医のマイケル・ボーゲンシュイツ(Michael Bogenschutz)氏は、昨年行われた幻覚剤治療のカンファレンスでそう語った。

50年間もの空白のあと、科学者たちは中毒・不安症・鬱病などの精神疾患に対する潜在的な治療法として、ようやく幻覚剤の研究を再開し始めている。研究結果は今のところ驚くほど将来性のあるものだが、まだまだ初期段階だ。

一番最近の研究は「トリップ・トリートメント」(幻覚体験治療法)に焦点を当てている。本質的にその治療法とは、「適正」と考えられる服用量の幻覚剤を患者に与えることで、幻覚体験や幻覚症状を引き起こすもの。これらの研究の被験者は圧倒的にポジティブな体験が得られたと語っており、また被験者の多くは自らの体験を「人生においてもっとも重要な体験の1つ」と説明する。

しかし、この重要な研究が注目を浴びるのと同時に、非科学的なもう1つのトレンドも有名になってきた。マイクロドージング(超微量薬物投与)だ。

シリコンバレーや他の地域の人たちは、幻覚剤を微量に摂取し、生産性を高めていると言う。マイクロドーズで鬱病などの自己治療を図っている人もいる。

問題は、マイクロドージング(超微量薬物投与)に関する科学的研究が存在しないことだ。個人の話に基づいた報告から、その幻覚剤のポジティブな効果を妥当と判断するのは不可能だ。

マイクロドージングの基礎知識

幻覚剤のマイクロドージング(超微量薬物投与)は「トリップ・トリートメント」とは重要な点において異なる。

何よりも、研究者はマイクロドージングの調査を行っていないということだ。LSDを合成したアルバート・ホフマン(Albert Hoffman)氏は、それを調査の不足している領域だと述べた。

ということは、マイクロドージングを行なっている人は違法薬物を自己管理下で使用しているという意味だ。そこには公認の試験も、計量値も、照査基準も何もない。言い換えれば、このデータを元にまともな結論を見いだすことなど不可能だということだ(例えば、LSDを微量に摂取している人物が鬱症状を緩和すると言ったとしても、他に薬を摂取していて、それが結果を妨害している可能性もあるということ)。

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次に、マイクロドージングは微量の幻覚剤を数日間に渡って数回摂取する。通常の幻覚体験を起こす単発の適正量を摂取する場合とは異なる。

例えば、LSDに焦点を当てたある研究では、LSD75ugを10mlの生理食塩水に溶かしたものが被験者に投与された。幻覚症状が出るのに十分な量だ。対照的に、LSDを投与する人たちは約10ug、もしくは娯楽目的で使われる標準的な量のおおよそ5分の1から10分の1を4日に1回摂取するという。

その程度の摂取量は「下位知覚的」な症状をもたらすよう意図される、とニューヨーク・タイムズは言及する。

「鮮明な色彩の幻覚症状を起こすには少なすぎるが、フロー状態の感覚を高めるには十分な量だ」

何度も言うが、マイクロドージングに関する調査は人から得た不確かな情報でしかない。LSDを摂取している人々の自己申告的な情報は、Redditのような掲示板サイトに散在している。精神学者のジェームズ・ファディマン(James Fadiman)氏のような医師らがまとめた、もっと系統だった報告書もいくつかある。彼は『The Psychedelic Explorer's Guide』の著者だ。

同氏は、マイクロドージングを行なった人たちは創造性の向上、不安感や鬱症状の軽減があったと伝えているが、これらの効果はまだ検証されていない。

幻覚体験中の脳について判明していること

科学者たちは、いまだに幻覚体験中の脳内で何が起きているかを突き止められていない。適正量を摂取した際の幻覚症状は、オズモンド氏の被験者が報告したように人生を変える体験を引き起こすと言う。しかし、それがなんであろうと、少々度合いは劣るが、数回のマイクロドーズでも同じことが起こっているという見解を示す科学者もいる。

幻覚体験中は「通常、脳の機能を制御する中枢が一時的に遮断します」

インペリアル・カレッジ・ロンドンで神経精神薬理学センターの代表を務めるデイビッド・ナット(David Nutt)氏は、1月初旬筆者にそう語った。

「連結性が飛躍するのです —— 普段は交信しない脳の部位が……お互いに交信しあう」。少量の服用であれば、「軽度」な効果をもたらすと言う。

パデュー大学で薬理学教授を務めるデイビッド・ニコールズ(David Nichols)氏は、Wiredのオリビア・ソロン(Olivia Solon)氏に以下のように語る。

「LSDの微量摂取がドーパミンの神経を活性化し、覚醒作用をもたらした可能性が高いでしょう」

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幻覚体験の一部は、ある脳の神経回路を塞ぎ、一方を強化することと関連している。幻覚体験中の抑制された様子を見せた重要な神経回路は、海馬傍回と脳梁膨大後部皮質をつなぐものだった。この回路は自己意識、または自我において重要な役割を果たすと考えられている。

また、自我の収縮は人や周りの環境ともっとつながりを感じる効果をもたらすようだ。

「通常の自我の意識は破壊され、自分自身・他人・自然界と再びつながる感覚に代わります」

幻覚体験中の健康的な被験者の脳のイメージを記録するという、その分野において初めての試験を行なったロビン・カーハートハリス(Robin Carhart-Harris)氏はニューヨークで開催されたカンファレンスでそう語った。

再度言うが、これは多めの摂取量の場合だ。単発の —— もしくは数回の —— マイクロドーズで何が起こるかは、まだ調査が必要なのだ。

[原文:The truth about 'microdosing,' which involves taking tiny amounts of psychedelics like LSD

(翻訳:Wizr)

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