日本で回転寿司の「スシロー」やオーガニック化粧品の「ジョンマスターオーガニック」を保有する英・投資ファンドのペルミラは、日本オフィスの人員拡大を検討している。日本企業が海外で大型買収を進めながら、国内のノンコア事業の売却を加速化させている中、ペルミラは投資拡大の契機と捉え対応する。
ペルミラ日本代表・藤井良太郎氏
ペルミラ・ジャパン
運用資産総額310億ユーロ(約3.8兆円)を超えるファンドを運用するプライベート・エクイティのペルミラは、増加する投資機会への対応のため、2018年末までに日本オフィスの人員を現在の6名から8〜10名程度まで増やしたい方針だ。コンサルティング会社や投資銀行のM&A(合併・買収)アドバイザリー部門、商社、事業会社の投資部などで経験を積んだベテランを中心に採用していく。ペルミラ・アドバイザーズ(日本)の代表取締役社長・藤井良太郎氏(42)が、BUSINESS INSIDER JAPANとのインタビューで明らかにした。
業績の悪化から事業売却に追い込まれる日本企業が依然見られる一方、日本の大手企業の経営者は積極的に非中核事業を売り払い、海外での買収を強化して大きな需要の獲得を図っている。少子高齢化により国内需要が鈍化するなか、日本企業は欧米を中心に大型買収を繰り広げる。この動きは現在のファンダメンタルが変わらない限り続くだろう。
ファンドによる買収
データからもその動きが見られる。M&A助言のレコフによると、2016年の日本企業による海外でのM&A(In-Out)は2015年に続き10兆円を超えた。企業が国内の事業売却を進めるなか、海外企業による日本企業に対するM&A(Out-In)は約2兆5590億円で、前年から倍増した。また、ファンドなどの投資会社による日本企業に対するM&Aは、約1兆1800億円で2007年以来の最高額だ。
「日本企業の経営者のマインンドセットは大きく変わってきている。積極的で合理的な判断に基づき、ノンコア事業を売却する決断を短期間で行うようになった。自前のM&Aチームを社内に作り、海外の企業買収に対して迅速に対応できる体制を整える企業も増えた」と、藤井氏は話す。
武田薬品工業や日産自動車、日立製作所による事業売却は典型例だ。武田は12月、試薬や臨床検査薬を製造する子会社・和光純薬工業の株式を富士フィルムに約1990億円で売却することで合意。売却の理由として「重点疾患領域である『オンコロジー(がん)』『消化器系疾患領域』『中枢神経系疾患領域』『ワクチン』への研究開発資源の重点的な配分を通じてイノベーションを推進する」と説明した。
武田、日産、日立の事業売却
日産も関連会社の株式を手放すことを決めた。昨年、自動車部品メーカーのカルソニックカンセイの株式41%を米系ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に売却することで合意している。KKRは1月、東京証券取引所に上場する日立工機のすべての普通株式と新株予約権に対し公開買付け(TOB)を行うと発表。日立工機は、KKRのノウハウとリソースを生かして、M&Aなどを活用した成長を追求すると説明した。
「プライベート・エクイティ(PE)の日本におけるアプローチは、ここ数年で大きく変わってきた」と藤井氏は話す。国内での事業売却に対して、「PEが事業会社と組んで買収提案をすることも多くなった」。東芝が昨年、子会社の東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却した入札では、PEが国内の事業会社と連合を組んで買収提案をしていた。
ペルミラの軸足
ペルミラは、「小売」「消費財」「ヘルスケア」「テクノロジー」「産業/サービス」「金融」などの分野に軸足を置き投資を実施しているが、日本では食とヘルスケア、さらにはフィンテックやヘルスケア・テックなどのテクノロジー分野に対しても投資・買収の機会を求めると、藤井氏は語る。昨年、ジョンマスターオーガニックを約370億円で買収したペルミラは今後、数百億円から数千億円規模の投資を検討している。「世界で食料と水はいずれ足らなくなる。農薬から加工食品、そしてエンド・マーケットのレストランまでの『フード・バリュー・チェーン』に対する投資は今後も継続していく」と藤井氏は言う。
数年前まで、「ジャパン・パッシング(Japan Passing)」と称され、海外の投資家は日本への投資を躊躇する動きが見られた。「ムードは大きく変わった」と藤井氏。「数年前と比べると、日本への投資の魅力は、アベノミクスや日銀の金融政策を経て、復活してきている」と述べた。データによると、日本企業に対する投資会社のM&A金額は、2008年〜2015年までの8年間、4000億円〜8000億円のレンジで推移するだけで、上昇の兆しは見られなかった。
藤井氏は、ゴールドマン・サックスの東京およびニューヨークオフィスで投資銀行業務などに従事した後、KKRで9年間勤務。ペルミラには2015年に入社した。なお、ペルミラは2016年に、バークレイズ証券のM&Aアドバイザリー部門に所属していた柴田英治氏を採用している。