『ムーンライト』が『ラ・ラ・ランド』よりもアカデミー賞に相応しい理由

58935f346e09a8c0078b48b2

『ムーンライト』

A24

『ラ・ラ・ランド』は記憶に残らない映画だ。この作品はアカデミー賞を狙って制作されており、26日の授賞式ではきっと作品賞を取るだろう。魅力的なミュージカルで技術的にも素晴らしく、ハリウッドで受ける映画だ。しかし、わたしはまだこの映画のサウンドトラックを聞いたファンに出会ったことはない。

この映画は古臭い。『雨に唄えば』や『シェルブールの傘』など、古典はつねに参考にされ、評価を高めていく。ジーン・ケリーは大スクリーンで歌い踊る芸術を完成させた。しかし、ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンはかろうじて歌とダンスができる程度。また映画で描かれる主人公の葛藤もありがち。『ラ・ラ・ランド』は美しいノスタルジーを満喫させてくれるが、表層的だ。

58935fd86e09a8c1078b4886

『ラ・ラ・ランド』は『雨に唄えば』に触発されている。

Summit Entertainment

『恋におちたシェイクスピア』のように、記憶に残らないアカデミー受賞作品は以前にもあった。『ムーンライト』は小規模な作品だが、受賞するチャンスは十分にあるし、わたしはそう願っている。この映画は、アメリカの歴史においてターニングポイントになるかもしれない瞬間を切り取った革命的な映画だから。いずれにせよこの作品は、時代を超えた作品だ。

上っ面だけを見れば、『ムーンライト』がアカデミー賞向きだ。アメリカの荒れ果てた貧困社会に生きる苦悩を、優れた俳優たちが描き出した。批評家が指摘するように、この作品は『プレシャス』や『チョコレート』のような黒人の苦しみを描く映画の伝統に則っている。薬物中毒者の描き方が陳腐なことは残念だが。

しかし、『ムーンライト』はより根本的な部分で、ユニークで、人生に対して肯定的で、魂を清めてくれるような作品だ。主人公は貧しい黒人男性で同性愛者。しかし、決して紋切り型のキャラクターではない。『ムーンライト』の監督とその脚本家は、ともに映画の舞台となったマイアミ・リバティーシティの出身。撮影は実際にそこで行われ、生まれ育った環境が主人公の人格形成に与えた影響を深く理解し、描き出している。ロケ撮影も見事だ(マイアミやその周辺に生まれた人なら、観ているうちに、ハートが熱くなること間違いなし。わたしがそうだった)。しかし、この作品が暴いていく、静かだが衝撃的なことは、「ゲイ」で「貧しい」「黒人」の主人公は、決してこれらのどのカテゴリーにも収まらないということだ。彼は彼自身のやり方で、自らのアイデンティティを確立する。

任期についたばかりの大統領は、都心に暮らす黒人の状況を「ひどいものだ」と発言した。こういった発言は、長く、アフリカ系アメリカ人が持つ本来の人間性を奪い去ってきた。今日までわたしたちは人種問題について多くの前進を遂げた。しかし、わたしたちはまた、自分自身を、同じような考え、行動する人々が属するコミュニティの中に置き、世の中を一面的に捉えてしまう。

58935f0c6e09a8aa238b45ef

青年時代のブラックを演じたトレバンテ・ローズ

A24

『ムーンライト』はこの問題に切り込む。大胆かつ巧みな3部構成で、主人公の人生が描かれる。彼は少年の頃はリトルと呼ばれ、大きくなるにつれシャロン、ブラックと呼び名が変わり、それぞれがストーリーと結びついている。最後の章では、傷つきやすい少年時代を過ぎ、故郷を離れたブラックが登場、ポップカルチャーからわたしたちが想起する厳しい黒人の暮らしが描かれる。しかしそれだけではない。少年リトルの章では人生の不可解さが、青年シャロンの章では優しさと不安感が描かれる。わたしたちが目撃するのは、アイデンティティの確立に苦しみ、自分自身を探し出そうとする1人の男の人生そのものだ。

『ムーンライト』のラストシーンは少年時代の友人との再会で結ばれる。しかし、ハリウッド映画によくあるシーンではない。彼らはぎこちなく会話を交わし、食事の合間に少しずつ親密さを取り戻していく。思い出の曲をジュークボックスでかけながら。

アメリカのメジャー映画で、2人の黒人男性の再会がこんな風に描写されたことはない。これは形だけ「人種差別撤廃」をテーマとした映画ではない。彼らのやりとりはまるで現実であるかのようにリアルで、単なるラブストーリーでもない。作品のテーマは、どんなに外見が変わろうとも、遠く長く離れていようとも、かけがえのない人は決して忘れることができないということだ。他の誰も彼らの本当の姿を知ることができないが、彼らはお互いに本当の姿を知っている。これまで大スクリーンで観た映画の中で、もっとも優れたシーンだ。

また、『ムーンライト』で描かれた人間の思いやりとつながりは、わたしたちがお互いをどのように理解すべきかを教えてくれる。この映画は、人種、性、コミュニティ、教育、収入、政治、さらには生活の多くの部分を左右している事柄によって(わたしたちが)定義されているという考えに、真っ向から反対する。そして何よりも、わたしたちはただ自分は何者なのかを知り、お互いを理解しようとしているだけなのだということを教えてくれる。それはおそらく、真に願い、行動すれば可能なことだ。

この作品は、2017年のみならず、いつの時代でも評価されるべき作品だ。

※この記事は筆者の考えに基づくものです。

[原文:Why 'Moonlight' is the Oscar best picture winner we deserve — and 'La La Land' is lame

(翻訳:小池祐里佳)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

Sponsored

From the Web

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい