AIで仕事はなくならない ―― なぜか過剰被害妄想の日本の本当の危機

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ヤフーのチーフストラテジーオフィサー(CSO)の安宅和人氏。イェール大学で脳神経科学の学位を取得し、データサイエンティスト協会の理事(兼 スキル委員長)を務める。

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「今の機械学習ベースの人工知能(AI)には、そもそもあまり語られていない『不都合な真実』があるんです」。そう話すのはヤフーのチーフストラテジーオフィサー(CSO)安宅和人氏。今、AIが語られる時に必ず出る文脈が「AIはどこまで人間の仕事を奪うのか」という点だが、安宅氏は 「AI vs 人間のように語ること自体、そもそも間違い。業務の何かが自動化されることは大量に起こるが、大半の人間の仕事がまるごと消えることは起きない。むしろ新しい仕事が色々増える可能性が高い」と話す。

そもそも「不都合な真実」とは何か。

安宅氏は日本ではAIに関する認識が大きく「ずれている」と指摘する。万能のように思われているAIだが、そもそもAIは計算環境と機械学習(深層学習を含む)、自然言語処理などの情報科学、訓練データを組み合わせて人間が実現を目指すゴール(「イデア」と安宅氏は表現する)に過ぎない。実際、「できない」ことはたくさんあり、むしろ、人間に比べてできることは限られている。ただ、できることが極端によくできる、そのことが万能に近いと誤解されているのだと。

「多くの仕事は大局的には問題解決です。まずは、どうなりたいか、という姿や目標、志を決める。現状を見立て、解決すべき点(問題)を整理する。問題を切り分け、それぞれ分析し、全体を俯瞰し、結論を出す。その上で、『こうやればいいよね』と関係する人たちに伝える。AIには意思がないので、人間が『こういう軸で判断をしてね』と目的を与えないと動けない。また、そういう『ガイドラインに沿って数値目標を単に設定する』とかではなく、『そもそもどうすべきだ』『この事業はどんな形にしていきたい』などという複合的かつ定性的で心に響くビジョンや最終型のイメージを描くことはAIには望むべくもありません」

「今、述べた問題解決の多くの段階でAIは『人間のように知覚する』ことが必要です。しかし、知覚は人間の身体(からだ)がなければできないことが随分多い。色や肌触り、味といった質感を得るには我々の身体を通した入力が必須です。我々と同じような知覚センサーを同じような密度で持つ、同じような固さや同じような動きをする身体で得ないと同じような入力にはならないからです。更に『知覚』は脳の中にしかありません。例えば、色や味、肌触りは物理量ではないのです。つまりAIは、わりと素朴な理由で、我々人間とは置き換えられないのです」

「また、我々の仕事の大部分は生産現場であろうが企画/販売の現場であろうが『対話』です。でも、AIには常識と呼ばれる我々の判断を置き換えることは極めて困難です。人がひとり入れ替わるだけで変わるような微妙な状況のセッティングや過去の経緯などのコンテキスト(文脈)を理解するのは当面ほぼ不可能です。したがって、正しいタイミングで、正しい相手に、正しく問いかけることはそのまま我々の仕事として残ります」

意味を与えるのは人間なのです。AIには常識と文脈を踏まえた判断もできないし、人に伝える力もない。みなさんが思っているような問題解決マシーンじゃないんです」

「AI=ドラえもん」は日本の非常識?

総務省の調査(「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」平成28年)によると、日本の就労者の抱くAIのイメージは「コンピューターが人間のように見たり、聞いたり、話したりする技術」(35.6%)であり、「コンピューターに自我(感情)をもたせる技術」(27.4%)だという。

安宅氏は、こうした傾向は日本にかなり色濃く存在するバイアスだと指摘する。

「AIといえばヒューマナイズした姿だけを当然のように妄想しているのは日本特有だと思います。AIと表裏一体の構造にあり、現在の革新のもう1つのドライバーであるビッグデータがもたらしている変化に目を向けたり、AIと呼んでいるものの実体に目を向けず、AI、AIとばかり言っているのも極めて危なっかしい。AIと言った時にイメージしているものも、欧米とは相当違う。他の国の人の多くはもっとコンピュータやソフトウェアによる情報処理、自動化だとちゃんと理解している人が多い。人工知能といって、いま生まれつつある変化として、ドラえもんみたいなのを想定するというのは、夢としては正しいが、危な過ぎると言わざるを得ない」

「今、ビッグデータとAIによって起きている自動化には大きく言って3つあります。すなわち、情報の『識別』と『予測』、そして暗黙知的なものを取り込む『実行』です。たとえば、Google Photoは写真をアップしておくと、自動的に関連する静止画をつないでアルバムやコラージュ組んでくれたり、連続する画像を使って動画にしてくれる。これらはもちろん人間にもできるけれど、コンピューターの処理はすごく速い。ざっと普通の人の200万倍以上。200万人も雇っている会社なんてないし、高い人件費を使ってこんなことをやらせようなんて誰も思わない。どんな組織にもできないことを彼らはキカイにやらせている。つまり、そもそも人間では誰にもできないレベルのことをあっという間にやらせるということ。これは仕事の置き換えではなく、不可能だったことが可能になった『新しい価値』なんですよ」

「つまりAIに仕事が取られるんじゃなくて、人間にはこれまでできなかったことができたり、やったことのないことが可能になってきたということがいま起こっていることの本質なんです」

仕事は「なくならない」、でもリスクは「ある」

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「仕事そのものはなくならない」と安宅氏

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それでも、「AIに仕事を奪われるのではないか」との懸念の声はある。

2015年12月、野村総合研究所がイギリス・オックスフォード大学と行った共同研究によれば、「国内601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボット等で代替される確率を試算した結果、10~20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られた」という(出所:野村総合研究所「国内601種の職業ごとのコンピューター技術による代替確率の試算」NRIとオックスフォード大学オズボーン准教授、フレイ博士の共同研究。本試算はあくまでもコンピューターによる技術的な代替可能性の試算であり、社会環境要因の影響は考慮していない)。

しかし、安宅氏は「大半の仕事そのものはなくならない」と言う。

「丸ごと自動化できる仕事なんて、ほとんどありません。ある種の作業が消えるということと、仕事が消えるということが混同されています。このイノベーションによって仕事がなくなってほしい人には申し訳ないですが、ほとんどの仕事は残るんです。週休3日とかは十分あり得るかもしれないけど、仕事そのものはなくならない。むしろこれらの自動化によって全く新しいタイプの仕事が劇的に生まれる可能性が高い。例えば自動走行車が普通に走るようになれば、移動中のクルマの中や自動で動くクルマを使った新たなサービス業が幅広く生まれることは確実です」

だからといって「危機」がないわけではない。その危機感の持ち方が「ものすごくずれている」のだという。

「これから本当に起きるのは『AI vs 人間』ではなくて、『自分とその周りの経験だけから学び、データやAIの力を使わない人とそれを使い倒す人』との戦いです」

「多くの知的生産の現場にはAIなどがアシストで入って来て、使いこなさないといけない。あらゆるところから入ってくるデータの力を解き放たなければならなくなる。使いこなせなかったら競争に負ける。多くの仕事は過渡期において二極化します。なくなる仕事があるんじゃなくて、同じ仕事なのに繁栄する人としない人に分かれていくんです。でも大丈夫。これまでの歴史を見ればわかるように、人間は必ず対応しますよ。人間に対応できないようなものは、そもそも価値がないですから」

本当の危機は「人材、技術、データの利活用」だった

むしろ、心配しなくてはならないのは、日本における「活用できる人材の不足」だ。「現状は極めて過酷」であり、「この国は内面から滅びつつある」と安宅氏は警鐘を鳴らす。その根底にあるのは、データ・リテラシーの低さと専門家の少なさ、そしてデータの利活用が広がらず、世界的な競争力を持てているとはいい難い日本の実態だ。

「今、アメリカのトップ大学の多くでは学部生の過半数が大学でコンピューター・サイエンスを主専攻として学んでいます。MITではほぼ100%です。副専攻まで入れるとこれがさらに上る。複数専攻(ダブルメジャー、トリプルメジャー)が可能だからということがありますが、基礎教養化しているんです。習得していないと将来食いっぱぐれることが分かっているから、みんな一生懸命。ここで落ちこぼれると、やりたいと思うようなイケている仕事につくことも無理になる。

でも、日本のトップ大学でこれらのデータ・リテラシーを習得できるコンピューター・サイエンスやデータ・サイエンスを所属の学部や学科を超え、誰もが持てる専攻のような形で提供し、学生がそれを競って履修している学校は存在しない。致命的ですよ。僕はこのところ国の省庁での委員的なお仕事が多いですが、そこでは文系・理系を問わずデータ・リテラシーを叩き込むべきだ、それに必要な数学も教えて欲しい、読み書きそろばんの一種としてやるべきだ、我々の子供たちにちゃんと武器を持たせなければまずい、と言っています」

「さらに大学と大学院で専門家をたくさん育ててほしい、また、国家プロジェクトを1000億円単位でいくつも立ち上げてリーダー層を育ててほしいと。つまり、リテラシーを高める、専門家育成、リーダー層育成の三位一体で育てなきゃいけないということも言ってきました」

この三位一体の取り組みに加え、既存のエンジニアとミドル・マネジメント層をAI&ビッグデータ時代に適した人材へ転換していくことが不可欠だというのが安宅氏の考えだ。

「今のAI×データ戦争には、3つの成功要件があります。データが大量にあってそれを幅広く使えるということと、それを回す力、そして回す人。今の日本はこのすべてが世界に伍していないんです。データも世界のトッププレーヤーに比べれば全然持ってない、使える場もない、データ処理しようとしたら電気代が高くて、コストが見合わない。ビッグデータ関連の技術も国外が大半。勝負になっていません。日本には才能のある人材はもちろんいます。でも、研究をする場、これらでワクワクを起こしているイケてる仕事がなかったら海外に出て行ってしまう。それでいいのかと言いたい」


急速に進化の進むAIを含む「テクノロジー」が人や企業、社会にどのような変化をもたらすのか。

安宅氏と2015年にフォーブス誌の「日本を救う起業家ベスト10」にも選ばれた注目の起業家、佐藤航陽氏(株式会社メタップス代表取締役)が今週15日(水)に行うトークセッションにも注目だ。

働き方を考えるカンファレンス2017「働く、生きる、そして」 (http://www.atwill.work/conference2017

日時:2017年2月15日(水)10時~18時30分

場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都・港区)

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