Medium崩壊の内幕:ジャーナリズムを変えようとした理想主義者はいかにして現実に敗れたか

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MediumのCEO エヴァン・ウィリアムズ

Christopher Michel/Flickr

2017年が始まって4日後、Mediumの従業員は、出社すると、全従業員の1/3にあたる50名が解雇されると伝えられた。

従業員たちは大きなショックを受けた。彼らは億万長者でCEO、Twitterの創業者の1人として知られるエヴァン・ウィリアムズ(Ev Williams)のことを慕っていたし、彼も従業員のことを気にかけているように思えたからなおさらだ。

だが、彼は解雇の事実を従業員に伝える前にブログで公表していたと、元従業員がBusiness Insiderに明かしてくれた。

業界内に広まったその記事を見て、自分の解雇を知った者もいる。

「会社がどれほど機能不全に陥っていたのかの証だ」と、元従業員の1人は我々に語った。かつてのMediumは夢のような職場だったとも。

ブログサービス兼オンラインパブリッシングサイトのMediumは、著名な創業者のおかげで2012年のローンチ後、すぐに有名なサービスとなった。ウィリアムズによると、このサービスのミッションは崩壊寸前のジャーナリズムを再生させ、新たなモデルを構築することだった。

だが、同社のビジネスプランの変更で“やけど”を負った人たちも多く、業界内ではウィリアムズのビジネス面の才覚に疑問の声が上がり始めている。この会社自体が彼のうぬぼれの象徴だと揶揄する者もいる。

解雇を告知する記事の中でウィリアムズは、Mediumが進めてきた「広告依存型のビジネスモデル」こそが、間違った情報の根源だとし、今後、Mediumは広告を掲載せず、サイトに記事を掲載しているパブリッシャーに広告収入を支払うことをやめると発表、併せてこれに関する業務にあたっていた人員が不要になったと語った。

彼は新しいビジネスモデルを模索中だ。

従業員とのコミュニケーション不足と同様、この計画変更を一部の広告主は知らされておらず、彼らは怒りを露わにしている。

また、ビジネスモデルの変更を事前に知らされず、Mediumと、ウィリアムズが取り止めたビジネスモデルで生計を立てていたパブリッシャーたちも激怒した。パブリッシャーには毎月、一定の金額がMediumから支払われていたが、それもなくなる。

Mediumに頼っていた人たちは取り残され、新たなプラットフォームへの移行を余儀なくされている。VCやリッチなオーナーのバックアップがないパブリッシャーにとっては、シビアな現実だ。

「わたしはエヴァンが好きだ。それは彼が俗物だからだ」と、あるパブリッシャーはBusiness Insiderに語った。

「彼は面白いアイデアを持っているし、彼の考えにはいつも驚かされる。彼はモノを作る人たちが好きだ。だから彼が突然コンセントを引き抜いて、業界全体を混乱に陥れるとは思っていなかった。だが、彼は『きみとの契約はもうすぐ終わりだ。頑張ってくれ。わたしは何人もの従業員を首にしなくてはならない』と言ったんだ」

我々は元従業員や顧客など、Mediumの様々な事業に携わっていた6名にインタビューした。この取材に関して、我々は詳細なリストをMediumに送った。彼らはコメントを拒否しメールにも返信しなかった。ウィリアムズとのインタビューも拒否された。

我々がインタビューをした人たちは以下のようにコメントしている。

  • Mediumのカルチャーには温かみがあった。ただ、全体的に“ふんわりした雰囲気”で、いい加減なところも多く、コミュニケーションが雑だ。
  • ウィリアムズはカリスマ的で、想像力があり、ある一面では非常に優れている。特にプロダクト面では優秀だ。しかし、彼はそれ以外では衝動的で、無知だ。
  • 誰もMediumが死んだなんて言っていない。だけど、金持ち、または有名な創業者が作りがちな、うまくいっていないベンチャーによくつけられる「うぬぼれスタートアップ」的なあだ名で呼ばれている。

「戯言ばかりがあふれている」

Mediumは長めの記事をインターネット上で誰でも公開できるメディアとしてローンチした。ウィリアムズはこのミッションに10年以上を費やしている。Twitterを立ち上げる前の1999年に彼はBloggerというサービスを立ち上げている。

インターネット・バブルが弾けた後、Bloggerは経営的に苦しんだが、その当時にしてみれば革新的なサービスだった。ウィリアムズは2003年、グーグルにこのサービスを売却している。金額は非公開。一部では2000万ドル(23億円)とも言われている。

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Medium

Mediumではウィリアムズはブログサービスが作り出した巨大な掃き溜めを一掃するというミッションを掲げていた。ブログが生み出した間違った情報や戯言の数々を根こそぎ一掃し、プロフェッショナルジャーナリズムを再生させることを彼は考えていた。

技術系のブログはいまや目も当てられない状態だ。完全な戯言ばかりがあふれている」と彼はブルームバーグのブラッド・ストーンに2013年に語っている。

「薄っぺらい文化を作りだし、間違ったものに執着し、それらを賞賛している。そして自滅的で、維持することが不可能な価値観をいたずらに煽っている。メディアが置かれている状態にわたしは悲観的だ。この問題を自らの手で解決したい」

当時の彼は、記事がクリック数ではなく、クオリティの高さによってオススメされるアルゴリズムを考えていた。人がどれだけの時間をかけてその記事を読むか、という観点から算出されるものだった。2013年時点では、Mediumにビジネスモデルはなかった。これはスタートアップ企業の初期ステージにはよくあることだが、そもそも彼は広告ベースでの運営を望んでいなかった。広告がこれらの掃き溜めの根源的な原因だと彼は考えていたからだ。

大きなビジョン、小さな約束

しかし、複数のビジネスモデルを試した結果、Mediumはスポンサーのシリーズ記事など、限定的ないくつかの広告を販売するプログラムをローンチした。例えば、マリオットがスポンサーとなっている旅行記事のシリーズなどがある。

そして他のプラットフォームで書いていたパブリッシャーたちに、Mediumに移行するよう働きかけた。Mediumの全体の読者層を増やそうとしたのだ。

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Mediumのオフィス

Glassdoor/Darren Hull

2016年4月に行われたAd Ageカンファランスでウィリアムズは「この時期のMediumのマネタイズは、著者にお金を支払うためのものだった。それを我々の仕事だと認識していた」と語った。

20以上の著者が彼のアイデアに乗り、Mediumに移行してきた。Bill SimmonsのThe RingerやArianna HuffingtonのThrive GlobalThinkProgressAmy Poehler's Smart GirlsThe Awl Networkなどだ。

あるパブリッシャーは、「Mediumとなにかを約束していたわけでは決してない。あくまで実験という形を取っていた」と語った。

「我々自身もこれはある種のギャンブルで、難しい状況だとわかっていた。うまくいかない可能性があることはわかっていたし、それはそれで仕方ない。でも、うまくいかない場合に、自分たちのビジネスまで足元をすくわれるようなことだけは避けたかったし、それを恐れていた」

「だけど、彼らと歩みをともにすることにした。彼らが熱心だったからだ。『Mediumはビジネスモデルを構築中だ。独立心を持ったジャーナリズムと一緒に仕事がしたい。時間はあるし、準備もできている』そう言われたんだ」

信じるに十分な理由はあった。Mediumは1億3400万ドル(約152億円)もの資金を集め、会社の価値も6億ドル(約682億円)まで上がった。ベータ版が発表された2016年4月には5000万ドル(約57億円)を集めた。投資目論見書によると、これにはウィリアムズ本人からの投資、そして、スパークキャピタルアンドリーセン・ホロウィッツGVなどからの投資が含まれていた。

だが、会社はトラブルに巻き込まれ、すぐに約束を守れなくなってしまった

10月、今後の進展について役員会議が行われ、その後すぐに広告セールスチームを率いていたJoe Purzyckiが会社を去った

従業員の1人によると、12月に行われた会議では、いつものポジティブでお気楽な雰囲気は微塵もなく、ウィリアムズは会社は計画通り進んでいないと話した。

億万長者のうぬぼれプロジェクト?

広告セールスは難しい。しかし、Mediumは初期段階ではある程度の成功を収めていた。スポンサーの記事シリーズの1つは6桁の収益を得ることに成功した。これはMediumがこれらの広告を複数のパブリッシャーのサイトに掲載することができたためだと言われる。ビジネス面でも希望はあった。

だが、長くは続かなかった。1年が過ぎた頃には、売上は予想を下回っていたと複数の人が証言している。

「パブリッシャーでお金を稼いでいた。そして広告でも稼いでいた」とある人はBusiness Insiderに語った。

「だが、我々が構築できたビジネスモデルは、それにすべてをつぎ込んだとしてもMediumの価値を正当化できるものではなかった。これにはベンチャーの資金繰りのからくりがある。首を突っ込んだマーケットが思ったよりも大きくない場合、大きなトラブルを抱え込むことになる

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Medium

だが、問題は他にもあった。広告セールスチーム、パブリッシャーのサポートチーム、そして広告機能を作成するチームは互いに協力しておらず、ほとんどコミュニケーションを取っていなかったようだ。それぞれがそれぞれの領域の中でもがいていた。

そして、肝心のウィリアムズも他のことに気を取られていた。

「正直なところ、エヴァンは収益をさほど気にしていなかった」と元従業員は言う。

「彼は民主主義的な空間を作り出し、人々が声をあげることができる場所を作りたい、という願望につき動かされていた。良いコンテンツがトップ画面に表示されることを理想としていた。『どうやってお金を稼ぐか?』には興味がなかった。彼は十分リッチだからね」

また他の者は言う。

「仕事には意味があると思えた。だけど常に考え方をコロコロ変えなくてはならなかった。プラットフォームがベータ版で、まだクローズドな最初の2年間は、それでも構わない。だけどサービスが始まって、企業やいろんな人たちが使い始めたら、変更は簡単じゃない。そのあたりから、あらゆるものの崩壊が始まったんだ」

あるパブリッシャーはMediumの突然の計画変更によって大打撃を受けた、と語った。

「小規模なパブリッシャーはひどい目にあっている。とても憤りを感じているんだ。スタートアップだということは理解している、でも違うはずだ。億万長者が運営しているんだから。エヴァンのうぬぼれプロジェクト? そうだ、今やそうなってしまった」

失敗との正面衝突を回避

我々に語ってくれた人たちは同じように「ウィリアムズを尊敬し、ウィリアムズが好きだ」と語る。そして、彼はハードワーカーで、オフィスに一番に出社し、最後まで仕事をしている、と。

元従業員は仕事が好きだったとも言った。フリーランチや会社での瞑想のレッスンだけが理由ではない。彼らのCEOは、子どもを溺愛する親のように彼らを扱ってくれた。

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Kevin Moloney/Fortune Brainstorm Tech

「ウィリアムズはとても素晴らしい仕事仲間だ。彼は今まで想像もしたことのないやり方で意欲をかき立ててくれた」

ウィリアムズはとても注意深くアイデアに耳を傾けるし、状況を違う角度から理解するためのヒントをくれる。そして、実験的な取り組みを推奨してくれるし、失敗を罰したりしない

だが、ウィリアムズと彼の片腕であるエド・リッチーは「失敗との正面衝突を回避している」とも言われている。彼らは「話したくない話題」を避け、ビジネスを継続可能な方向に仕向けていくためのコース修正を避けていた、と複数の関係者が語った。

従業員に対する彼らのメッセージは常に楽観的だった。そして潤沢な資金があった。だから、従業員は現状に甘んじてしまった、と言う人もいる。結局、過去5年間のうち4年間をMediumで過ごしたエド・リッチーも退社するらしい(Mediumはこの件についてのコメントを拒否した)。

今回のビジネスモデルの大幅な変更は、2度目のことだった。かつて、Medium自身が情報発信者になるというビジョンのもとで、ライターや編集者を雇い入れたことがあった。そしてその方向を転換させた。雇われた者たちは退社するか、他のポジションへ移ることを余儀なくされた。

仮にウィリアムズが最終的にビジネスモデルを適正なものにできたとしても、ここまでくるとメディア界での信用と信頼を回復しなければならないだろう。

パブリッシング版Netflix

ウィリアムズが次に望んでいるビジネスモデルはサブスクリプション方式のものだと、彼はシリコンバレーで語っている。出版業界のNetflixになる、というアイデアだ。

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こういう広告バナーが出ないようにしたのだが……。

Medium

また、ウィリアムズは読者が支援する「パトロニゼーション(patronization)」と呼ばれるビジネスモデルにも興味を示している。ウィリアムズは家に人を招き、ディナー・パーティーを開くことを楽しみにしていて、ジャーナリズムの世界にいるケイティ・クーリック(Katie Couric)やMediumのパブリッシャーと時間を過ごしている。ある時、ディナーでは、「Wait But Why」の著者であるティム・アーバン(Tim Urban)が、自身の広告嫌いについて議論していた。

「このサイトには広告はありません、なぜならば広告は醜いからです」とWait But Whyのサポートページには書かれている。

その代わり、Wait But Whyはパトロニゼーションによって支援されている。記事は無料で読めるが、Patreonというサービスを使って、月々、少額の寄付を得るという方法だ。アーバンは4000人の読者を獲得し、毎月1万2000ドル(約136万円)以上の寄付を集めている。自分と従業員の給料を支払い、経費を支払うには十分な額だ。この方法でこの方法で、もっと多くの金額を集めようとしている。

「エヴァンはこのアイデアがとても気に入ったようでした。彼にとっては良いアイデアだと思いますが、これはそのまま拡大できるビジネスモデルではありません。とても難しいビジネスです。エヴァンは広告が嫌い? なるほど。なら、クレジットカードがどう処理されるのかわかるまで待ってみたらいいのでは?

ウィリアムズがどうやってMediumを信頼性のあるビジネスに育て上げるかは、まだ謎のままだ。彼のためだけでなく、パブリッシャーや従業員にとっても。そして投資家たちも彼がトライするのを待っている。

そのうちの1人で、ジャーナリストからベンチャー起業家になったM.G. Sieglerは、ウィリアムズは最初の重要なステップでは成功を収めていると言う。それはサイトの読者を獲得することだ。「Mediumでは、昨年、20億の単語が書かれた。記事にして750万本、月間6000万人の読者がいる」とSieglerは記している

「やりたいことが明確になれば、コンテンツホルダーとは新たな契約が必要になるかもしれない。だが、より重要なのは、以前には存在し得なかった新しいタイプのコンテンツの可能性を切り開くことだ」

(敬称略)

[原文:INSIDE MEDIUM'S MELTDOWN: How an idealistic Silicon Valley founder raised $134 million to change journalism, then crashed into reality

(翻訳:まいるす・ゑびす)

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