Takuto Oshima
2月15日に開催された「働き方を考えるカンファレンス2017『働く、生きる、そして』」(一般社団法人at Will Work主催)。経済界を中心に各方面で活躍する50人以上のゲスト・スピーカーから「働き方」に関するヒントを得ようと、約600人が参加した。
中でも「日本人は本当に働き過ぎているのか? 」をテーマとしたセッションは、イベント前日に政府が長時間労働の是正に向け、時間外労働の上限「年間最大720時間・月平均60時間」の導入を検討していると報じられたこともあり、会場の高い関心を集めた。
「働き方」を考える上で、わたしたちは労働時間をどのように捉えたらいいのだろう。
「多様性を前提とした議論が必要」
竹中平蔵氏(慶應義塾大学名誉教授)
「労働時間を考える前提として、働く人間の意思と職種を考慮しなくてはならない。時間で測ることのできるものと、そうでないものがある」
「職種によっては、労働時間の制限を設けるべきだが、すべてではない。残業というコンセプトのない仕事、ホワイト・エグゼンプションもあるということは、浸透させていかなくてはならない。多様性を前提とした議論が必要だ」
「制度と人々のメンタリティが好循環するようなシステムを作るべき。リカレント教育といった新しい知識を身につける後押しも政府がやるべき。同一労働・同一賃金は、まずは霞が関特区で実施し、全体へ広げていけばいい」
「チェンジ・メーカーは子どもを持って働く女性」
「日本の女性は労働に対して報酬が発生する有償労働と、家事などの報酬が発生しない無償労働を合わせると、世界的に見ても働き過ぎ」 「仕事が生きがいという人もいるが、生活の糧として働いていければよいという人たちも守られるべき。日本の働く時間は制限速度のない高速道路なので、限度は必要」 「チェンジ・メーカーは子どもを持って働く女性。限られた時間の中で生産性を上げようと一番真剣に考えている(彼女たちが活躍できる場が生産性の高い場」 「経営者には、労働者はいざとなれば限度なく働くだろうという認識があったが、無限の労働時間に頼ったビジネスモデルは変革を迫られる。対応できない会社から離れることも必要。自分の市場価値を知るために転職エージェントなどに登録するのもいい」
「働きすぎかどうかは自分で判断。働き方は選べる」
小口日出彦氏(株式会社パースペクティブ・メディア代表取締役)
「働きすぎかどうかは自分で判断すべき。働き方は、自分で選ぶ。働かないという選択さえあっていい。自分で選べば、その選択肢について働きすぎなのかどうか自分で判断するのは当たり前のこと」 「企業が変わらないなら、辞めてしまえばいい。『動けない』と思い込んでしまったら終わり。いつでも目の前に選択肢はたくさんある。動けないと思い込んでしまいがちな発想を変えるべき。それだけで景色は変わる」 「制度の劇的な変化は望めないように思う。ただ、実態は変わってきている。働く場所を日本に限定しない人、既存の制度/枠組みに縛られずに仕事をする人が続々と現れている。それが人々の価値観に大きな変化をもたらし始めている」
「働き方をデザインしたら、生産性が上がった」
西村創一朗氏(株式会社HARES代表取締役)
「過労死が一定数出ていることからも、『働きすぎ』が存在することは自明」
「働くことで何を実現したいのか、その上でどう働くのか、自分で決められるのがベスト。それを考えるには可処分時間(=自分の裁量で自由に使える時間)が必要。『望まない長時間労働』は、働く個人から意志を奪い、思考を停止させてしまうため、生産性が下がったり、心身を壊したり、最悪の場合は死に至ってしまう。まずは可処分時間を増やすと同時に、副業解禁を進めるなど、もっと働きたいという人が自らの意思で時間を仕事に投資できる選択肢を増やすべき」
「自分が会社を辞めたのは、会社が嫌になったのではなく、働き方の問題。働き方を自分で全部デザインできることで、生産性が上がった」
「いかに短い時間で成果を上げるか。成果が足りないから無制限に働かせるのではなく、より高い成果を出すために従業員の可処分時間を増やす、という発想の転換が必要」
なお、OECDの最新データ(2015年)によると、日本の1人あたり平均年間労働時間は1719時間と、OECD加盟国の平均である1766時間よりも少ない。ただ主要先進7カ国(G7)に限ってみると、アメリカ(1790時間)、イタリア(1725時間)に次いで3番目に多く、労働時間の少ないドイツ(1371時間)やフランス(1482時間)に比べると、200時間以上長くなっている。
一方、日本の時間あたり労働生産性は42.1ドル(4439円/購買力平価(PPP)換算)で、OECD加盟国35カ国中20位。1970年以来、G7の中では最下位の状況が続いていて、(G7の中で)最も生産性の高いアメリカに比べると、6割強にとどまっている(公益財団法人日本生産性本部調べ)。