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何百万もの人々が、これまで聞いたことのない病と戦っている。
NASH(nonalcoholic steatohepatitis:非アルコール性脂肪性肝炎)は、肝臓に脂肪が溜まることで引き起こされる病気の一種だ。
近年、その存在が注目され、およそ1600万人のアメリカ人が患っていると予測されている。
肝臓の病気は、多くの場合、かなり進行するまで気づかれないため、しばしば「沈黙の」病気と呼ばれている。
「NASHはわたしたちの社会が直面する、次の慢性疾患の1つとされています」 と、製薬会社アラガンのCEO ブレント・サンダース(Brent Saunders)氏は、同社が昨年9月にNASHの新薬を開発中のトビラ・セラピューティクスを16億5000万ドル(約1900億円)で買収した際のニュースリリースで述べている。
NASHは最終段階に来るまではそれほど症状はないが、2020年までには肝炎を追い抜き、肝臓移植が必要な病気のトップになると予想されている。治療法を見つける競争も激化している。
これまでの経緯
NASHは生活習慣に強く依存する比較的新しい病気だ。しかし、進行に従って急激に悪化し、肝線維症を引き起こす。
「この病気が、流行の初期段階から後期段階に移行したことは明らか」と、この6年間、NASHの治療薬の研究に取り組んでいる製薬会社ギリアド・サイエンシズの肝疾患治療薬部門のトップ、マニ・サブラマニアン(Mani Subramanian)氏はBusiness Insiderに語った。「この病気は、生体システムに浸潤して行く」と同氏は述べた。
NASHという用語は1980年に作られたが、すぐには研究の積極的な対象とはならなかった。大きな理由は、この病気は軽微なものだと考えられていたからだ。この病気は食習慣と密接な関係がある、または少なくとも食習慣によって悪化する。まわりにこの病気にかかった人はいないかもしれないが、肥満、II型糖尿病、インシュリン抵抗性のある人がこの病気にかかると進行、悪化するリスクが高い。
「これは西洋の食習慣の不幸な面です」。同じくNASH治療薬の開発を進めているMadrigal PharmaceuticalsのCEO ポール・フリードマン(Paul Friedman)氏はわたしたちに語った。「理想的な世界では人々はおおむねスリムであり、インシュリン抵抗性(肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインシュリンが正常に働かなくなった状態)なしでいられます。しかし、近い将来、多くの人が肥満に悩まされるでしょう。問題はさらに大きくなると思われます」
現在は主にC型肝炎の治療法として肝臓移植が行われているが、NASHがより広まってくれば、肝移植の主な原因となる。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の消化器科教授で、ギリアド・サイエンズのNASH治療薬の臨床試験を担当したロヒット・ルーンバ(Rohit Loomba)氏によれば、いまやNASHは「医学における最大の未解決事項」だ。
診断が非常に困難な理由
NASHの治療については、2つの越えるべき大きなハードルがある。
- 患者自身が早い段階で気づくこと
- 治療法を発見すること
早期においては、ほとんどの場合、何の症状もない。NASHかどうかを最終的に判断するには肝生検が必要になる。肝臓に小さな針を刺し、細胞をいくつか抽出する必要がある。もしNASHにかかっていても、治療法がないなら、知りたくないという人もいるだろう。
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研究者たちは、肝生検を受ける必要があるかどうかを判断するため、画像診断や血液検査に取り組んでいるが、それは単にある一定のレベルの肝線維症がわかるだけだ。
コレステロールを下げる薬や糖尿病の薬を飲んだ時のように、効果を簡単にチェックできる血液検査法がまだないのだ。
治療薬の開発は進められている。調査会社バーンステイン(Bernstein)によると、NASH関連市場は2025年までに70億ドル(約8000億円)規模になると予測されている。
別の言い方をすれば、病状が進んだ患者に診断を下すことはやさしいとサブラマニアン氏は語る。しかしそれは同時に、もっとも治療が困難な段階でもある。
治療薬の開発に取り組む製薬会社
現時点でNASHに対抗する手段は体重を落とすこと、落とした体重を維持すること、そして食事療法だけだ。しかし、多くの人にとって、それらは必ずしも簡単なことではない。そのため研究者たちはNASHの治療法について、様々な実験的な方法に取り組んでいる。
この分野は、今、MadrigalやInterceptのような小規模なバイオテクノロジー企業から、ノボノルディスク、ギリアド、ブリストルマイヤーズスクイブ、アラガンなどの大手製薬会社に至るまで、各社が注力する分野になっている。
この病気には様々な段階があり、治療のための最良の方法と時期について、様々な見解があることもその要因だ。
例えば、他の代謝性疾患と同じように治療するべきなのか? コレステロール値を下げたり、血糖値を測定するべきなのか? それとも、肝線維症や炎症を軽減すべきなのか? 肝臓の状態が回復してきたとして、最適な治療時期はいつだろうか?
開発中の治療薬の中には、臨床試験の第2段階を終えたものもあるが、まだ解決すべき課題は多い。特に薬がどの程度の効果を発揮するのかはまだ不明点が多い。2019年頃には、何らかの結果が出るはずだ。
薬が承認されるまで、まだ数年かかるが、今年中には初期段階の臨床試験を行っている製薬会社から、さらにデータが出てくるだろう。NASHの治療に向けて、何らかの手がかりになるはずだ。
(翻訳:Conyac)